【桜舞う新学期】



新学期、新しい空気に包まれて校舎へ向かう。

クラス分けのプリントを見ると、わたしと雪ちゃんが同じクラス。

そして、春花ちゃんと秋穂ちゃんが同じクラス。

さすがに4人同じクラスはないか。

さぁ、教室に行こう。

―――………

目に映ったのは自分の部屋の景色。

どうやら、クラス替えの夢を見ていたみたい。

でも、あまりにもリアルだった。

もしかしてあのクラス替え、ホントになったりして……。


* * *


翌日の朝、まだ数日前のライブの余韻が残ったままわたしは学校へ向かった。

「おはよう~」

「おはよう」

校門で春花ちゃん達と待ち合わせて校舎へ向かう。

「クラス替えどうなってるかな?」

「わたし、昨日夢で見たんだけど。わたしと雪ちゃんが同じクラスで、春花ちゃんと秋穂ちゃんが同じクラスだったの」

わたしがそう言うと、

「そうなの? じゃあ、よろしくね、春花ちゃん」

秋穂ちゃんが笑顔で春花ちゃんに言った。

「でも、夢だからね。ホントかわかんないよ」

なんて言いながら校舎に行ってクラス分けのプリントをもらう。

ドキドキしながら自分の名前を探すと、わたしは去年と同じA組。

そして雪ちゃんもわたしと同じA組。

春花ちゃんと秋穂ちゃんが隣のB組だった。

そう、わたしが夢で見たクラス分けと全く同じ。

「萌ちゃん、すごいね! ホントに夢の通りだよ!」

雪ちゃんが興奮気味にわたしに言う。

「ホントだね、わたしもビックリだよ」

まさかホントになるなんて……。

そのあと5人で話しながら教室へ向かった。

わたしのクラスは、去年に引き続き岡崎先生が担任。

クラスをざっと見回すと、去年同じクラスだ
った子が多い。

見た感じ、絶対タイプが合わなそうっていう子はいない。

佐倉さんは文系コースから総合コースに進路を変えて、クラスが別になっていた。

やっと離れることが出来て、正直心底嬉しかった。

ホームルームと始業式を終えて、早くも帰りの時間。

わたしたちはまた5人で集まって一緒に帰った。

外に出ると、グラウンドの桜が見事に満開になっていた。

あまりにもキレイで、わたしたちは思わず立ち止まる。

「ねぇねぇ、ちょっとお花見してこうよ!」

雪ちゃんが嬉しそうにグラウンドに走っていく。

わたしたちも雪ちゃんの後に続いて、誰もいないグラウンドへ。

風に舞って、はらはらと落ちる桜の花びら。

「花びらつかまえられない~」

風に舞う花びらを子供みたいにつかまえようとする雪ちゃん。

「春だね~」

しみじみつぶやく秋穂ちゃんとすみれちゃん。

黙ってみんなの様子を見ている春花ちゃん。

5人で、学校の校庭でお花見。

桜吹雪の中、友達と制服姿で笑い合っている。

それはまるでドラマのワンシーンみたいだった。

こんな風に5人で心から笑い合えたのは、この日が最後だった。



【変わる友情】


きっかけはなんだったんだろう?

今でもはっきり思い出せない。

でも、1年間一緒に過ごして、お互いの性格がだいぶわかってきて。

少しずつわたしたちの心に変化が訪れていたのかもしれない。

受験生ということもあって、選択の授業も増え、わたしは春花ちゃん、秋穂ちゃんと一緒の授業が多かった。

最初は休み時間に何気なく雪ちゃんの話題が出ただけなんだけど…。

「雪ちゃんって、自分でも言ってたけど、やっぱりちょっと変わってるよね」

「うんうん。なんか結構話がかみ合わない時あるし」

「話してることもなんかちょっと変だよね」

話し始めたら、予想以上に3人でどんどん盛り上がっていた。

雪ちゃんは、よく言えば無邪気で純粋。

でも、それは時として幼すぎて呆れてしまう部分でもあった。

そんな独特のキャラが、5人の中でも少しずつ目立ち始めていた。

3人で雪ちゃんの話で盛り上がるようになってから、わたしたちは雪ちゃんの言動や仕草が今まで以上に気になるようになった。

昼休みや休み時間、雪ちゃんが席を外した時に「さっきのウケたよね~」なんて言い合うようになっていた。

“この子の独特のキャラにはついていけない、わたしたちには合わない”

今まで内心では思っていても、友達だからと口にするのを避けていたこと。

それが、ふとしたはずみで解禁された。

3人とも実は同じ気持ちだったことを知り、一種の連帯感が生まれて、3人で雪ちゃんの話をするのが楽しくなっていた。

雪ちゃん抜きで3人でいる方が楽しいと感じるようになっていた。

夏希ちゃんも、お昼休みや休み時間を理系クラスの友達と過ごすようになって、少しずつ5人の絆はゆるみ始めていた。


* * *


春花ちゃん、秋穂ちゃんとの3人での居心地がよくなってしまったことで、わたしたちは日に日にある気持ちが強くなっていた。

“雪ちゃんと離れたい”―。

特に、中学時代から雪ちゃんと仲良くなり、一番つきあいの長い秋穂ちゃんは、その気持ちが強かった。

秋穂ちゃんは、わたしや春花ちゃん以上に雪ちゃんの独特のキャラに振り回されていて、ストレスがたまっているようだった。

「どうしようか?」

「もうそろそろ限界だよね…」

そして、5月のある日。

ついに、わたしたちは雪ちゃんと話し合う決断をした。

昼休み、食堂にいつも通り4人で集まった。

どう切り出そうか。

3人で目配せして、少しの間沈黙が続いた。

さすがに、いつもと様子が違うことに気づいた雪ちゃんが「どうしたの?」と訊いてきた。

「あのね…」

わたしは遠慮がちに口を開いた。

「最近ちょっと雪ちゃんとは考え方とか合わない部分があって…」

「そっか、わかった。気をつけるようにするわ」

雪ちゃんが、そんなに気にした様子もなく明るく言う。

「いや、気をつけるとかそういう問題じゃなくて……」

やっぱり雪ちゃんには理解できてないんだ。

「その…雪ちゃんとは性格的に合わないっていうか…」

わたしは言葉を選んで慎重に話した。

「どうすればいいの? わたし、頑張るから……」

少しずつ深刻な雰囲気を察したのか、雪ちゃんが真剣な表情で言った。

どうしよう。なんて言ったらいいんだろう。

わたしが考えていたら、

「頑張るって言われても、わたし、もう雪ちゃんと一緒にいるの無理なの」

いつも大人しくて控え目な秋穂ちゃんが、珍しくキツイ口調で言った。

ずっと仲良くしてきた秋穂ちゃんのその一言は、雪ちゃんにとってかなりきいたみたい。

「…そう…なんだ…」

ひどく落ち込んだ様子で先に教室へ戻って行った。

その姿が、1年生の時にグループの中で欠点を指摘されたわたしの姿とダブって見えた。

もしかしたらあの時、玲ちゃん達もこんな気持ちだったのかな……。

ふと、そんなことを思った。

翌日、秋穂ちゃんに絶縁宣言された雪ちゃんは、昼休みに自分から食堂ではなく部室へ向かって、ひとりでお弁当を食べるつもりのようだった。

「昨日、秋穂ちゃんよく言ったね~」

3人で食堂に集まってお昼ご飯を食べながら、昨日の話で盛り上がった。

「秋穂ちゃんがあんなにハッキリ言うなんて思わなかったよ」

「雪ちゃんかなり落ち込んでたよね」

色々話していたら、あっというまに予鈴が鳴
った。

教室へ戻ろうと廊下を春花ちゃんと歩いていたら、偶然部室から戻ってきたらしい雪ちゃんに会った。

雪ちゃんは、目が合うとわたしと春花ちゃんのところへ来て、すがるように言った。

「ねぇ…わたし、どうしたらいいのかまだよくわからないけど、頑張るから…」

昨日と同じセリフ。

「雪ちゃん…」

必死な姿に、また1年生の時のわたしとダブって胸が痛む。

一方、春花ちゃんは無言のまま憮然とした表情で窓の外の景色を見つめている。

全く雪ちゃんと目を合わせようとしない。

……怒ってる。

わたしは、初めて春花ちゃんが怒っているところを見た。

“わたしも、もう雪ちゃんとはつきあえない”と言いたいのが、その態度でわかった。

春花ちゃんにも絶縁を態度で示された雪ちゃんは、最後の砦というように同じクラスのわたしに頼ってくるようになった。

雪ちゃんと離れたいという気持ちはあるものの、グループからひとりだけ外される辛さを知っているわたしは、雪ちゃんを完全に突き放すことが出来ずにいた。

突然友達から突き放されてショックな雪ちゃんの気持ちは、痛いほどよくわかる。

でも、雪ちゃんの幼くてすぐに人を頼るところや、空気の読めないところ、独特のキャラにつきあうのに疲れて、離れたいと思ういっちゃんや秋穂ちゃんの気持ちもよくわかる。

どちらの立場もわかるだけに、両方の気持ちに引っ張られて、わたしは心の中でひとり葛藤していた。

わたしは、ひとりでお弁当を食べる辛さや、休み時間や授業で孤立する辛さを身をもって経験している。

雪ちゃんに同じ思いを味わわせたくない。

同じ痛みを知っているのに、自分の立場を守るために同じ目に遭わせるような人になりたくない。

どうすればいいんだろう。
どうしたらいいんだろう。

悩んで悩んで、秋穂ちゃんに夜中までメッセージアプリで相談した日もあった。

悩んだ末、わたしは雪ちゃんに言った。

「わたしも前に同じようなことがあったから、雪ちゃんの気持ちはよくわかるんだ。でもね、雪ちゃんにはもうちょっと精神的に大人になってほしい。正直言って、雪ちゃんが今の状態のままなら、やっぱりわたしも雪ちゃんと一緒にいられない」

それが、わたしの出した答えだった。

この選択が正しかったのかは、わからないけれど。

両方の立場に立って真剣に悩んで考えて出した、精一杯の答えだった。



【高校最後の夏休み】




期末テストが終わって、高校生活最後の夏休みが始まった。

わたしは、夏休み初日に沙織さんとディズニーランドに行くことになっていた。

「ライブ以外でも遊びたいですね」なんて話していたことが実現したんだ。

当日は、気持ちのいい快晴。

写真を撮ったりアトラクションに乗ったり、閉園まで楽しい時間を過ごした。

沙織さんは社会人ということで、同い年の友達より落ち着いた感じだから、一緒にいて安心できる。

ひとりっ子のわたしには年の離れたお姉さんの様な感じ。

閉園まで遊んで帰りはクタクタだったけど、夏休み初日に早くも楽しい思い出が作れた。

翌日の午後は、明清女子大学のオープンキャンパスに参加した。

お祖母ちゃんが一緒に付き添ってくれて、キャンパス内を見て回った。

女子校というのは今と変わらないし、自然が多いところも緑野女子と似ている。

歴史のある由緒正しい雰囲気の大学。

お祖母ちゃんは学校の雰囲気をとても気に入って、「いい学校じゃないの。合格出来るように頑張りなさい」と言ってくれた。

家族はみんなこの学校を受験することに大賛成だった。

夏休み最後の日、秋穂ちゃんからメールが来た。

【明日から学校だね。萌ちゃん、体育祭の係で雪ちゃんと一緒だけど大丈夫?】

【大丈夫だと思うよ。普通のクラスメートとして接すればいいことだし】

わたしは、クラスの係で雪ちゃんと同じ体育祭の鈴割係になっていた。

3年生になってすぐに決めたから、当然の様に友達として一緒の係を選んだ。

あの時はこんなことになるとは思っていなかったな。

でも、一緒の係である以上は、普通にクラスメートとして接するようにしようと思っていた。

雪ちゃんと離れたかわりに、秋穂ちゃんとの仲は去年より深まっていた。

明日から、また学校が始まる。

いよいよ、受験も始まる。

この時は、まだ受験が私達にとって大きな波になるなんて思っていなかった。


【涙と笑顔の学院祭】


夏休みが明けると、文化祭と体育祭の準備に追われる毎日。

今年は高校生活最後の学祭だから、いつも以上にみんなが張り切っている。

そして、文化祭が終わるとすぐに体育祭。

体育祭は、3年生のダンスと鈴割が毎年の見せ場。

特に、扇子を使って制服のスカートを着て踊るダンスは、藤華女子の体育祭の伝統だ。

3年生になるとすぐ体育の授業で練習が始まっていた。

そしてもうひとつの見せ場が鈴割。

クラスごとに中に垂れ幕を入れた鈴を作って玉入れの玉を投げて割る出し物。

わたしと雪ちゃん、春花ちゃんと秋穂ちゃんでそれぞれ鈴割の係になっていた。

放課後に残って鈴作りをすることになっているけど、さすがに受験が近づいてきて、塾や予備校に通う人が増え始めて残ってくれる人は少なくてなかなか進まない。

人数が少ない中で鈴作りをしていたある日。

雪ちゃんとは同じ係のクラスメートとして接していたつもりだったけど、ふとしたことから秋穂ちゃん達と離れることになった時の話になった。

「萌ちゃん、わたしに精神的に大人になって欲しいって言ってたけど、大人になるってどういうこと? わたしにはやっぱりわからないよ」

「………」

多分、何を話しても雪ちゃんには伝わらないだろうと思った。

わたし達と離れてからの雪ちゃんの様子を見てきたけど、1年生の時のわたしと決定的に違うのは、雪ちゃんにはある程度話せる親しい子が結構いるということ。

たとえうわべだけのつきあいで、相手が本当は雪ちゃんと仲良くするのを嫌だと思っているかもしれなくても、わたしみたいに完全に孤立している感じではなかった。

それに、わたし達が直してほしいと思っているところを直そうと努力している様子もなく、開き直っているだけのように見えた。

「自分の欠点と向き合うのは嫌かもしれないけど、もっと真剣に自分と向き合って考えたら?  わたしは1年生の時に、ホントにひとりぼっちになって自分の欠点と向き合ってきたんだ。雪ちゃんは本当にひとりになったことないからそうやって甘えていられるんだよ」

今まではひとりになる辛さを知っているからと雪ちゃんの気持ちに寄り添っていたわたしも、「甘えないで」という気持ちが強くなっていた。

「そんなこと言われたって、わたしは萌ちゃんみたいに強くないもん……」

雪ちゃんはついに泣き出してしまった。

近くにいた子達が何事かとわたしたちを見ている。

わたしだって強いわけじゃない。

でも、負けたくなかったから必死に変わる努力をして、新しい人間関係を築いた。

誰だって、自分の弱さや欠点とは向き合いたくない。

自分自身にちゃんと正面から向き合う勇気を雪ちゃんに持って欲しかった。

でも、きっと雪ちゃんにはわかってもらえないんだ。

その日を境に、わたしは雪ちゃんと話さなくなった。



* * *


体育祭当日。天気は生憎の曇り空。

わたしは沙織さんを招待して、学校に来てもらっていた。

午前中の競技が終わり、昼休み。

春花ちゃんと秋穂ちゃんに沙織さんを紹介した。

短い時間ではあったけど、食堂で沙織さんとも話が出来て嬉しかった。

そして、午後にはついに3年生の見せ場のダンス。

この半年間、ずっと授業で練習して、夏休み明けからは朝も早く集まって練習していた。

ついに本番が始まる。

入場の音楽が流れてそれぞれの場所へ。

代表の子が、指導してくれた先生に一言話したあと、音楽が流れて本番が始まった。

みんなが気持ちをひとつにして踊り、ダンスは大成功。

大きな拍手をもらって退場したあと、すぐにまたグラウンドに戻って先生に花束を渡す。
そして今度は鈴割が始まった。

クラスごとに集まって作った鈴に玉を投げて、みんなで鈴を割る。

全クラスの鈴が割れると、マイムマイムが流れ始める。

最初はクラスのみんなで踊って、だんだん輪が広がって最後には学年みんなで手を繋いで踊る。

これも、毎年3年生がやっている伝統だ。

みんなで手を繋いで中心に集まって笑顔で手拍子をして、最後の学祭を楽しんでいる瞬間だった。

全ての競技が終わって片付けをしたあとは、後夜祭。

去年は春花ちゃんと一緒に見られなかったけど、今年は春花ちゃん、秋穂ちゃんと3人で一緒に見た。

それは、これから訪れる受験の波に飲まれる前の、楽しい時間だった。



【受験と友情】



学園祭が終わると、一気に受験シーズンが到来。

推薦組は11月から面接が始まるため、面接の練習やH.R.で受験対策講義などが行われるようになった。

学園祭前に指定校推薦が取れていたわたしは、面接に備えて準備を始めた。

クラス内でも、「指定校?公募? 一般?」なんて会話が頻繁に飛び交うようになっていた。

「あの子はどこを受けるんだろう?」という探り合いの目も感じ始めていた。

それまで受験の話をあまりしていなかったわたし達も、昼休みに推薦なのか一般なのか話すようになった。

学校名まではまだ言わなかったけど、わたしと春花ちゃんは推薦、秋穂ちゃんは一般で外部大学を受験。

でも、緑野女子は附属大学があるから、全体的に受験と言ってもそれほどピリピリした感じではなかった。

先生達も落ち着いて見守ってくれている様子だった。

11月に入って、いよいよ指定校と公募推薦の面接が目前に迫ってきた。

わたしも含め、推薦組は緊張感に包まれていた。

そして、この頃から秋穂ちゃんの様子が変わり始めた。

昼休みに一緒にいてもどこか上の空で、口数も少なくなった。

あまり笑わなくなったし、ほとんどわたしと春花ちゃんの2人で話をしている状態。

「最近、秋穂ちゃんの様子おかしいよね?」

「やっぱり春花ちゃんも思ってた?」

「うん。やっぱりうちらが推薦だから気にしてるのかな」

「そうかもね…」

「なんかあるなら相談してくれればいいのにね」

帰り道。わたしはいつも途中まで春花ちゃんと一緒に帰っているから、2人で歩きながらそんな話をした。

秋穂ちゃんの様子は日に日に変わり、しゃべらないどころか時計を見てはそわそわしたり、顔を机に伏せてかなり落ち込んでいる雰囲気だったり。

たまりかねてわたしが「何かあったの?」と聞いても、「別に…」と言うだけで、何も話してくれない。

ついには、昼休みの途中で教室に戻ってしまうようになった。

「何なんだろうね?」

「何かあるなら友達なんだから話してくれればいいのに」

突然変わってしまった秋穂ちゃんの態度に、わたしたちは戸惑うばかりだった。

思い当たるのはのは進路や受験のこと。

受験を機に、今度は秋穂ちゃんとの仲がすれ違い始めていた。


* * *


11月下旬。ついにわたしの指定校推薦の面接の日がやってきた。

面接はそんなに長い時間をかけることもなく、特に大きな失敗もなく無事に終わった。

数日後、担任から封筒をもらって中を開けると、合格通知が入っていた。

「高村さん、おめでとう。合格です」

「ありがとうございます!」

見事第一志望校に合格が決まったわたしは、一気に力が抜けた。

これであとは卒業を待つのみだ。

その後、春花ちゃんも第一志望校に推薦で合格。

そして、一般受験と言っていた秋穂ちゃんも、12月の頭にはAO入試で合格が決まった。

晴れて3人とも進路が決まったことで、お互いの大学名もカミングアウト。

春花ちゃんは男女共学の大学、秋穂ちゃんはわたしと同じく女子大だった。

昼休みにはそれぞれの大学のパンフレットを見せ合ったりした。

一時期は明らかにおかしかった秋穂ちゃんも、受験が終わって様子が戻った。

そしてまた3人で食堂でくだらない話で盛り上がったりわたしの家で遊んだり、残り少ない高校生活を満喫していた。

あと3か月で高校生活が終わる。


【卒業まで、あと少し】




冬休みが終わって年が明けると、学校は完全に受験モード。

推薦で進路が決まっている生徒については、新たにクラス決めをして特別授業として通常の授業とは違う内容で4時間の半日授業を行う。

わたしと春花ちゃん、秋穂ちゃん、3人は特別授業組だった。

授業が終わったあとは、食堂でお昼ご飯を食べながらお喋り。

もう午後の授業はないから、好きなだけ話していられる。


あとわずかになった高校生活。

春花ちゃん、秋穂ちゃんとはできるだけ一緒に楽しく過ごしたかった。

でも…やっぱり、また秋穂ちゃんの態度が変わり始めた。

話しても妙にそっけない感じがする。

「お昼一緒に食べて帰ろう」と誘っても、「今日は予定があるから」と言って断られる。

それなのに、他の子と食堂に来てお昼を食べているのを目撃したこともあった。

受験の時から様子がおかしいと思ってはいたけれど、はっきり理由も話してくれず、秋穂ちゃんが何を考えているのかわからなかった。


わたしは秋穂ちゃんのことを春花ちゃんと同じように一番の友達だと思っている。

だから、何かあるなら正直に話してほしいし、悩みがあるなら話してほしかった。

友達として頼ってほしかった。

授業が始まって数日経ったある日、授業が終わったあとに思い切って3人で本音トークをした。

秋穂ちゃんは、私と春花ちゃんが去年からの友達だからふたりで盛り上がっていてちょっと入りづらいと感じていたようだった。

お互い最近気になっていたことを話し合えてスッキリした。

それから数週間、高3の最初の時のような雰囲気に戻って、授業後は毎日食堂で話をした。

久しぶりに夏希ちゃんと一緒にお昼を食べた日もあった。

そして1月いっぱいで授業は終了。

2月は合唱祭と卒業式予行以外は休み。

卒業記念にと、2月の初旬に久しぶりに雪ちゃん以外のメンバーでディズニーランドへ出掛けた。

真冬の寒さも気にせず久しぶりに大はしゃぎした。


2月下旬。私は高校生活最後に最高のプレゼントをもらった。

いつも何よりも心の支えにしていた大好きなGLAYのライブ。

ホール規模といういつもよりかなり小さな会場のチケットが当たって、それも8列目という今までで一番ステージに近い席で、今回の相方も沙織さん。

初めて間近で見たメンバーの姿にふたりとも大興奮&大感動。

みんなキラキラと輝いていて、まぶしくて。

でも、親しみのあるほのぼのとした雰囲気。

本当に夢を見ているような時間だった。

何度励まされ、何度救われたかわからない。

クラスでひとり戦えたのも、勉強を頑張れたのも、全部彼らのおかげ。

これはきっと、辛いことがあっても負けないで頑張ったご褒美。

卒業直前に最高の思い出が作れて最高に嬉しかった。

高校の卒業式は3月2日。

卒業まで、あと少し。



【旅立ちの日に…】




3月2日。

今日、わたしは緑野女子学院を卒業する。

いまいち卒業を実感できずにいるけれど。

卒業式の会場は、学校から20分くらい歩いたところにある市民会館。

会場までの道を、春花ちゃん、秋穂ちゃんと3人で歩いた。

こんな風に制服で一緒にいられるのも今日で最後だ。

会場に着いてクラスごとに並んで、いよいよ卒業式が始まった。

みんなで、この学校ではお馴染みの仏教歌を歌い、校歌を歌う。

クラスごとに担任が一人ずつ名前を呼ぶ。

知ってる子、知らない子、仲良くなった子、離れてしまった子、苦手だった子。

もう、この中のほとんどの子達とは会わなくなるだろう。

わたしのクラスの番になり、自分の名前が呼ばれるのをドキドキしながら待っていた。

「高村 萌」

「はい」

大きな声で返事をして立ち上がる。

卒業式は厳粛な雰囲気の中無事に終わった。

式が終わって学校に戻ると、今度は食堂でお別れの会。

クラスごとに用意されたお弁当を食べながら、みんなで乾杯して歓談。

先生たちから歌のプレゼントがあって、最後にはみんなで『さくら』を大合唱。

泣き出す子、思いきり笑顔で歌う子。

色々な思いが溢れている。

最後に飛び交ったピンクのハート型風船が、歌の通りまるで桜の花びらのように揺れている。

高3の始業式の日に、5人で笑いながら校庭で見た桜を思い出す。

もう二度とあの日には戻れない。

そう思ったら、なんだか切なくなった。

先生方の拍手に包まれて、卒業生が退場。

それぞれの教室に戻って、最後のホームルームのあとクラスは解散になった。

最後にわたしは、担任の岡崎先生、春花ちゃん、秋穂ちゃん、夏希ちゃんと写真を撮った。

雪ちゃんとは、体育祭の頃からほとんど話さなくなっていて、最後も言葉を交わさず別れてしまった。

夏希ちゃんは理系クラスで新しい友達関係を築いて、その子達と一緒に過ごしていた。

ずっと仲良くしてきた秋穂ちゃんも、本音トークをしてから元に戻れたように思えたけどやっぱりどこか気持ちがすれ違ってきていた。

今日が最後だから一緒に帰りたかったけど、他の友達と話しこんでしまっていた。

結局わたしは、2年生の時からずっと一緒に過ごしてきた春花ちゃんと2人で一緒に帰ることになった。

出会って仲良くなれても残念ながら気持ちが離れてしまった子が多かった中で、最後まで心から信じ合い、仲良くいられたのは、春花ちゃんだった。

「もう制服でこの道を歩くの最後だね」

「うん。なんか切ないよね」

しんみり話していたらあっというまにいっちゃんと別れる場所に着いた。

「じゃあ…またね」

「うん。またね」

さよならじゃない。

卒業してもきっと、春花ちゃんとはずっと友達でいられると信じているから。

そしてわたし達は、それぞれの道へ歩き出した。

毎朝歌った仏教歌。

苦手だった授業。

好きだった授業。

休み時間のおしゃべり。

食堂でくだらないことで大笑いした昼休み。

いつも裏門から春花ちゃんと一緒に歩いた帰り道。

もう全部今日で最後なんだ。

たったひとりになっていじめと必死に闘った1年生。

新しい出会いに楽しいことだらけだった2年生。

受験という大きな波と友達関係の難しさを知った3年生。

振り返ればあっという間の3年間だった。

もし1年生の時にあきらめていたら、この日は迎えられなかった。

学校から逃げ出したくて、自分の存在を消したかったあの頃のわたしを思い出す。

生きるって、楽しいことばかりじゃない。

辛いこともたくさんある。

だけど、苦しみを乗り越えたら前より強い自分になれる。

新しい世界が待っている。

だから必死に闘っていたあの頃のわたしに、今、教室で闘っているあなたに伝えたい。

あきらめないで、生きること。