「ミーコの願い事はね、お母さんとスギタと……手をつないでみたい」

 その言葉に、ミーコがそんなことを考えていたかと思うと、やりきれない気持ちになりました。
 決して叶えることのできないその思いは、悔しくも感じどうしていいかわからないでいました。

 ペンが進められない私は、うろたえるように杉田さんの方を見ました。
 杉田さんは、静かな声で話してくれます。

「真ん中にミーコちゃんが入れるように、僕と美代子ちゃんの絵を描いてみたらどうかな?」

 私は最後のページに自分と杉田さんの絵を描き足すと、同時に悔しさのような涙が溢れていました。
 ミーコは二人の間に入り顔を見つめ恥ずかしそうにしていました。
 そーっと手をつなぐと、照れながらも喜んでいます。

 そんなミーコの仕草を見て、いままでの悩み事が、小さく感じるほどでした。
 杉田さんも同様の気持ちだと思います。
 隣で泣き声を押し殺しているのが、わかります。

「それでねー、いーっぱいのお花の中を散歩したい」

 涙が溢れながらも、空いているスペースに花の絵で埋め尽くしていきます。
 ミーコはやっと笑顔になり、はしゃぎます。

「もっと、いーっぱいがいい」

 すでに花壇には溢れんばかりの花を描いていましたが、ミーコのの喜ぶ声にページ全体を花で埋め尽くします。

 スイセンにクロッカスにヒヤシンス、サクラソウにマリーゴールドを描くと、ペンが止まりました。

「そうだ、ブーゲンビリアも描いちゃおうか」

 少しおどけながら話すと、ミーコの表情はさらに明るくなります。

「本当は春の花で統一しようと思ったんだけど、私とミーコの好きな花も描いちゃおうよ、特別だよ」

 無理して明るくしていても、涙が頬をつたい落ちていくのがわかります。

「お母さんの実家で見たね、咲いていたの不思議だったね」

 ミーコとのこれまで思い出が、蘇ります。

「ミーコも上手にスケッチブックに描けたよ……ね」

 思い出を語るように喋ると、その言葉はミーコへの感謝への言葉に変わっていきました。

「私ミーコに出会えて本当によかった……ミーコありがとうね、ミーコのおかげで……」

 話してはいけないと閉まっていた、別れの言葉が溢れていました。
 我慢できず泣き始めると、杉田さんは優しく声をかけてくれます。

「美代子ちゃん、変わるね」

 杉田さんはノートの花に色をつけ始めると、ノートの中は現実では表現の出来ないほど、色濃く染まっていきます。
 ミーコは私と杉田さんの手を離さないまま、驚きが入り混じる笑顔で喜んでいます。

「もっともっといーっぱいのお花がいい」

 そんなミーコの喜ぶ声を聞こえると、泣きながらも笑って答えます。

「もう一杯だよ」

 杉田さんも、ミーコを喜ばそうと考えます。

「ミーコちゃん僕ね、桜吹雪も練習したんだよ」

 今度はピンク色の花びらを、空間に吹雪かせます。

 一枚一枚丁寧に描く桜の花びらは、横で見ていた私にも、愛情の表現であることが伝わります。

「キレイ、すごくキレイ」

 ミーコが驚くように喜ぶと、その声や笑顔が私にとって幸せであることを認識させます。

「本当だね、ミーコの願い事はとっても素敵だね」

 私のその言葉にミーコから笑顔が消えると、頬を涙が濡らしていました。