数週間が経ち、私達はお付き合いをするようになりました。
 優しい杉田さんに心惹かれる私が居たことと、何より杉田さんとミーコが楽しく会話をしている光景が、幸せに感じたからです。

 休日は三人で過ごすようになり、ミーコと杉田さんとはすっかり仲良しです。

「スギター、チューリップ描いて」

 でもミーコは杉田さんのことを、現在も呼びすてです。

「ミーコ駄目でしょ、杉田さんと呼ばなきゃ」

「いいんだよ……美代子ちゃん、僕達友達だから」

 杉田さんは会社に居る時は今まで通り田中さんと呼んでいるので、私の名前がとっさには出ないようです。
 本来なら私も、杉田さんの下の名前。恵(めぐみ)さんと呼ぶべきなのでしょうが、ミーコの前では恥ずかしく、口に出すことが出来ないでいました。

「ミーコちゃん僕のチューリップ、だいぶ上手になったでしょ?」

 描き上げる絵を見て、ミーコは笑い身構えています。

「駄目だよミーコちゃん引っこ抜いちゃ、お花が可哀想でしょ」

 ミーコは杉田さんが描き終わると、すぐに引っこ抜き遊んでいます。

「でも本当上手になったよね、最初見たときは食器のホークかと思ったもん」

 笑いながら話すと、杉田さんは苦笑いしながらも、広告裏の白紙部分を広げ、絵を描く準備をしています。

「えーっ、ひどいなー。じゃあ、こんなのはどうかなー」

 杉田さんは色鉛筆を使い、ブーゲンビリアの花を描きます。
 描き上がると、今度はそこに色を入れ始めました。

 その色は丁寧に濃く染まり、現実的な光による色の変化はないものの、鮮やかさを強調させます。
 輪郭を濃く塗り修正していく技法は、素朴でありながら、存在感のある絵に仕上がっていきます。

「そんなことも出来るの、知らなかった」

 杉田さんの意外な才能に驚きました。

「森川さんに教わったら、面白くなっちゃって。大人になってからも塗り絵が楽しめるなんて、僕も知らなかったよ」

 描き上がった絵を、ミーコに自慢げに見せています。

「ミーコちゃん上手でしょ、今度はこうゆうの描こうか?」

 ミーコはそのことには興味を持たず、笑いながら催促します。

「あはっはっはっ、やだー。チューリップ描いてっ」

 杉田さんは大げさにうつ向き、がっかりすると「プレゼン失敗だー」と、つぶやきながらチューリップを描き始めました。

 その日の夕方、台所に立つ私に杉田さんが真面目な顔付きで近づき、小声で話しました。

「ミーコちゃんのノートのページが、もう余り無いけど大丈夫かな」

 厚みの有るノートですが、ミーコが毎日移動し続け、ページは残りわずかになっていました。
 杉田さんもそれをみて、不安になったのだと思います。

「うん、最終的に最後のページにミーコが移動しても、そこからどうなるかわからないし……ほら、ひょっとしたら最初のページに移動するかも」


 後ろ向きな言葉を出すのが怖く強がっていましたが、心ではそんな都合の良いことは無いと思っていました。