突然絞り出す声に、杉田さんの視線は不安なものに変わります。
決心が付いたものの、これから話す内容に喜びが途絶えるのかと考えると、感情がわからなくなっていました。
「私には生まれつき、肩から背中にかけて大きなアザがあります。普通の人からしたら醜く感じるかもしれません……だから」
杉田さんの持つノートから、「お母さん」と呼ぶ、ミーコの声が小さく聞こえました。
自分が惨めだと感じましたが、涙を見せてはいけないと、意識します。
杉田さんは慌てた表情のまま、手に持つノートに視線を移しました。
そうですよね。こうなることは、覚悟していました。
「……」
沈黙の中、冷静さを作ろうとする私は、これからのことを考えていました。
明日も同じ職場で働くのですから、何事も無かったかのように会話をしなければいけません。
私から帰宅しましょうと、声をかけようと考えていました。
「いきなりごめんなさい。そろそろ……」
「普通って言葉は、なんか違う気がします」
杉田さんの声に、意識だけが向きます。
誠実的な声色の後、それとは別に柔らかい声色で、ミーコに先ほどの質問を、答えているようでした。
「ミーコちゃん。僕は不器用だけど、頑張っている田中さんが好きなんだよ」
私は首を振った後、答えました。
「頑張っているなんて、そんな。杉田さんが思っているほど私、真面目な人間ではないです。人が苦手で、人を避けてきて……ずるい気持ちも持っていますし……そんな自分がただ嫌で」
その言葉に杉田さんは、少し笑うかのように、明るいしゃべりかたで話しました。
「でも、そんな自分をわかって下さいっと、開き直り人に押し付けていないじゃない。自分が変わろうと努力している、頑張っている田中さんを見ていると、僕も共鳴させられるし守ってあげたいと感じているんだっ」
私は目元の涙が溢れ出したので、すぐさま顔を手で覆いました。
「田中さん。僕は小学校の時、滑り台から落ちたことがあるのですが、その時に手の骨を折り、手術の後が残っていますよ。そうそう頭にも傷があるし……それに」
「……」
「そんなの、僕が田中さんを好きな理由に、何の妨げにはならないよ」
手で覆った暗闇の中、嬉しい涙が呼吸を妨げていました。
ハンカチを取り出すことも出来ないほど、手の甲でこぼれ落ちる涙を拭いています。
杉田さんは、その光景をミーコに見せないようにしてくれていましたが、ミーコがさらに質問をしました。
「じゃあ、ミーコとお母さんを守ると」
私はその意味がわかると、すぐさま後に続く言葉を止めていました。
「駄目だよミーコ。そんなこと言わないで」
ミーコの言葉には、私を優先させるための、意味が込められていと感じたからです。
それは私にとって、聞くことも想像することさえも、拒絶するものでした。
杉田さんも理解したようで、考えながらもミーコを慰めるようにしゃべります。
「僕は、その、田中さんが好きだから、田中さんを悲しませることは絶対にしたくないんだよ。……だから、田中さんの大事なミーコちゃんも、僕にとっても大事な存在なんだ」
杉田さんの照れくさそうに顔を赤らめながらも、一生懸命話をつづけます。
「だから、順番も付けられないし、もし二人に何かあったら同時に守るよ……約束するよ。それに、僕もミーコちゃんのこと大好きになっちゃったんだ。自分以上にね」
杉田さんはそう説明すると、ミーコに優しく微笑み、私にノートをそっと渡してくれました。
これ以上に無い言葉にとても嬉しくなり、ノートを受け取りながら、ありがとう。と、心の中でそうつぶやいていました。
ミーコのおかげで杉田さんはイメージ通り優しい人であることと、愛情を持った人であることがわかりました。
私には到底まねの出来ない真っすぐな二人の会話は、素直な気持ちが向き合ったものだと感じ、少し羨ましいほどでした。
ミーコには少し難しい内容にも思いましたが、杉田さんに大好きだと言われ、どう感じたのでしょうか?
感謝と疑問の気持ちを抱きながらノートを覗き込むと、ミーコは眉間にシワを寄せ申し訳なさそうにしています。
「気持ちはうれしいけど、ミーコ、スギタはタイプじゃないの。ごめんね」
杉田さんに気を使うかのように目線をふせるミーコは、どうやら言葉の意味を誤解して、受け止めているようでした。
決心が付いたものの、これから話す内容に喜びが途絶えるのかと考えると、感情がわからなくなっていました。
「私には生まれつき、肩から背中にかけて大きなアザがあります。普通の人からしたら醜く感じるかもしれません……だから」
杉田さんの持つノートから、「お母さん」と呼ぶ、ミーコの声が小さく聞こえました。
自分が惨めだと感じましたが、涙を見せてはいけないと、意識します。
杉田さんは慌てた表情のまま、手に持つノートに視線を移しました。
そうですよね。こうなることは、覚悟していました。
「……」
沈黙の中、冷静さを作ろうとする私は、これからのことを考えていました。
明日も同じ職場で働くのですから、何事も無かったかのように会話をしなければいけません。
私から帰宅しましょうと、声をかけようと考えていました。
「いきなりごめんなさい。そろそろ……」
「普通って言葉は、なんか違う気がします」
杉田さんの声に、意識だけが向きます。
誠実的な声色の後、それとは別に柔らかい声色で、ミーコに先ほどの質問を、答えているようでした。
「ミーコちゃん。僕は不器用だけど、頑張っている田中さんが好きなんだよ」
私は首を振った後、答えました。
「頑張っているなんて、そんな。杉田さんが思っているほど私、真面目な人間ではないです。人が苦手で、人を避けてきて……ずるい気持ちも持っていますし……そんな自分がただ嫌で」
その言葉に杉田さんは、少し笑うかのように、明るいしゃべりかたで話しました。
「でも、そんな自分をわかって下さいっと、開き直り人に押し付けていないじゃない。自分が変わろうと努力している、頑張っている田中さんを見ていると、僕も共鳴させられるし守ってあげたいと感じているんだっ」
私は目元の涙が溢れ出したので、すぐさま顔を手で覆いました。
「田中さん。僕は小学校の時、滑り台から落ちたことがあるのですが、その時に手の骨を折り、手術の後が残っていますよ。そうそう頭にも傷があるし……それに」
「……」
「そんなの、僕が田中さんを好きな理由に、何の妨げにはならないよ」
手で覆った暗闇の中、嬉しい涙が呼吸を妨げていました。
ハンカチを取り出すことも出来ないほど、手の甲でこぼれ落ちる涙を拭いています。
杉田さんは、その光景をミーコに見せないようにしてくれていましたが、ミーコがさらに質問をしました。
「じゃあ、ミーコとお母さんを守ると」
私はその意味がわかると、すぐさま後に続く言葉を止めていました。
「駄目だよミーコ。そんなこと言わないで」
ミーコの言葉には、私を優先させるための、意味が込められていと感じたからです。
それは私にとって、聞くことも想像することさえも、拒絶するものでした。
杉田さんも理解したようで、考えながらもミーコを慰めるようにしゃべります。
「僕は、その、田中さんが好きだから、田中さんを悲しませることは絶対にしたくないんだよ。……だから、田中さんの大事なミーコちゃんも、僕にとっても大事な存在なんだ」
杉田さんの照れくさそうに顔を赤らめながらも、一生懸命話をつづけます。
「だから、順番も付けられないし、もし二人に何かあったら同時に守るよ……約束するよ。それに、僕もミーコちゃんのこと大好きになっちゃったんだ。自分以上にね」
杉田さんはそう説明すると、ミーコに優しく微笑み、私にノートをそっと渡してくれました。
これ以上に無い言葉にとても嬉しくなり、ノートを受け取りながら、ありがとう。と、心の中でそうつぶやいていました。
ミーコのおかげで杉田さんはイメージ通り優しい人であることと、愛情を持った人であることがわかりました。
私には到底まねの出来ない真っすぐな二人の会話は、素直な気持ちが向き合ったものだと感じ、少し羨ましいほどでした。
ミーコには少し難しい内容にも思いましたが、杉田さんに大好きだと言われ、どう感じたのでしょうか?
感謝と疑問の気持ちを抱きながらノートを覗き込むと、ミーコは眉間にシワを寄せ申し訳なさそうにしています。
「気持ちはうれしいけど、ミーコ、スギタはタイプじゃないの。ごめんね」
杉田さんに気を使うかのように目線をふせるミーコは、どうやら言葉の意味を誤解して、受け止めているようでした。