当時は、肩のアザを気にして学校の水泳には参加していませんでした。
 楽しみではありましたが、自分だけ特別なのだと思い諦めていました。
 
 そんな私を両親は心配し、授業以外で水泳を楽しませようと考えてくれたのだと思います。
 肩と腰に白いフリルが付いた、アザが隠れる水着。
 休日にはその水着を持ってバスに乗り、自宅から少し離れた市民プールに連れていってくれました。

 おかげで泳げるようになり、泳ぐ楽しさを知ることが出来ました。
 そして身の回りで唯一咲いていた、ブーゲンビリアを見られたことは、記憶に美しく残っています。 
 両親との優しい記憶は、現在の心も豊かにさせます。

 森川さんの言葉を、思い出していました。
 
 不思議なノートの意味は、非現実的ではありますが、本当かもしれません。
 きっと忘れていたことを思い出させてくれる、魔法のノートなんだっと。
 ただ、私にとって優しい記憶でも、普通の人からしたら、惨めに映るのこもしれません。
 
 ノートの彼女も、寂しい表情のままこちらを見つめています。
 彼女を見つめていると、最後に付け足したアザが気になります。

 せっかく私がこの世に生み出したのに、何も同じように付け足すことはありません。
 自分と同じ思いをさせてはいけないと感じ、彼女のアザを消し始めました。
 
 あれ、おかしいなー消えにくい。

 描くときに力を入れすぎたためでしょうか? 鉛筆と紙の相性が悪かったのでしょうか? アザは少し薄くなったものの、完全に消すことは出来ませんでした。

「アザは消えないのか」

 考えた結果、消えなかったアザを袖付きの服で誤魔化し、隠すことにしました。
 新たに袖の外枠を描き、服全体を鉛筆で塗りつぶします。
 今度は優しく、軽く鉛筆でなぜるように上描きいしていきます。

 両親のくれた優しさを、嚙みしめる思いでした。
 ノートの彼女には思い悩まないでほしい。
 服のラインをなぞりながら、そんな気持ちが強くなっていました。