翌日、多少体の節々が筋肉痛のように痛みを感じましたが、熱も平熱に戻ったので会社に出社することが出来ました。
 ドキドキしながら社内を見渡すと、杉田さんはすでに営業先に出かけていました。
 突然あの場から走り出したことに対する謝罪が、先延ばしになったことで不安は大きくなっていきます。

「おはよう大丈夫!」

 森川さんが私に気付き、声をかけてくれます。
「おはようございます。昨日はすみませんでした」
「うんうん……あのね」

 森川さんは何か言いづらそうな、しゃべり方をしていました。
「私、田中さんに謝らねきゃいけないことがあって」
 森川さんは周りを見渡し、小声でしゃべり始めました。

 その内容は、私と別れ一人戻った杉田さんは、森川さんに相談したそうです。
 ノートに描かれた女の子が動く仕組みを、私に聞いたら走って帰ってしまったと、何か気に触り怒らせてしまったのでは無いかと。
 森川さんも、杉田さんに見えることに驚き考えた結果、不思議なノートの話をしたそうです。

「ごめんね、ひょっとしたら杉田くんが、田中さんの力になってくれるんじゃ無いかと思って」
 私はその話を聞き、やはり誤解を招き杉田さんに不安を与えてしまっていたことを、理解しました。
「いえ、私がびっくりして、説明もせずに走って帰てしまったので……今日はちゃんと説明をして謝ろうと思っていました」

 その後も森川さんと私は、何故杉田さんに見えるのか、考えていました。
 始業時刻に近づくと、次々と会社に出社してきます。
「おはよう、美代子。大丈夫?」

 石井さん、桜井さん、鈴野さん、みなさんが私を心配し声をかけてくれます。
「田中さんおはよう、風邪だって大丈夫?」
 社長と専務も、声をかけてくれます。

「昨日はすみませんでした。熱も下がったので大丈夫です」
 私は専務の顔を見て、昨日描いた遊園地のキャラクターを見ていただこうと思い、緊張が走りました。
 カバンからキャラクターが描かれた原案を取り出し、専務の座る席に近づきます。

「専務、遊園地のキャラクターを考えたのですが」
 そう話ながら差し出すと、専務は受け取り見始めました。
 原案に描かれたキャラクターは最終的に二匹のキャラクターでした。

 一匹は少し小太りでブチガラの男の子、もう一匹は目付きの悪い黒猫の女の子です。
「うーん」
 専務は凄く小さな声を発しながら長い時間考えています。

 私は駄目だったかなっと思いながら、賛否判定の言葉を体に力が入りながら待っていました。
「良いんじゃない」
 突然隣から声がしたので横を見ると、社長が覗き込みながら話していました。

 いつの間にか居たことに驚いていると、今度は後ろからも声が聞こえます。
「可愛いじゃない」
 聞こえた声は森川さんでした。

 振り返るとそこには営業さん以外の全員が立っていました。
「おっ黒猫かー、いいねー」
 桜井さんは黒猫を、気に入ってくれたようでした。

 私は桜井さんが、気にいるのもわかる気がしました。

 この目付きの悪い猫は、桜井さんを参考に出来たキャラクターだったからです。
 やせ型の体に手足を長くし、ボーイシュにズボンを履かせた女の子です。
 全体が黒でまとめて居るため、アクセントをつける意味で、真珠のネックレスをしています。
「こっちの小太りも良くない」

 それまで覗き込むようにしていた森川さんは、原案をおもむろに専務から取り上げていました。
 一瞬凄く小さな声で、専務の「あっ」っと言う、声がしましたが、みんなはそのことを気にせず、いつの間にか中心は森川さんになっていました。

 社長は指差し話します。
「小太りの子は、キャラクターに個性が有って良いじゃない」
 その言葉に、桜井さんも返します。

「黒猫も存在感ありますよ」

「黒猫はガラ悪いからダメですよ、もっと可愛くしたほうがいいんじゃないですか」
 石井さんも参加し始めました。

 話しの輪から取り残された専務の顔を見ると、少し困った表情をしながらも笑っていました。
「評判良いみたいだからこの原案を、お客さんに提出するよ」
 専務の前向きな言葉を聞き、私は安心をしていました。