杉田さんの話では桜井さんは昔有名なスケ番で、高木さんも学年や地元が同じことから、学生時代から桜井さんのことを一方的ですが知っていたそうです。

 柔道部で当時から体格の良い高木さんでしたが、そんな桜井さんを恐れ、いつも遠目で見ていたそうです。

 桜井さんの高校時代には数々の武勇伝があることを、杉田さんは教えてくれました。

 子分が他校にもいる話や、桜井さんが使う駅には不良が寄り付かない話。

 遠足で行った動物園でオオカミ達が桜井さんに気付くと、一斉にお腹を見せた話。

 しかも桜井さんがその場を立ち去る際には、別れを惜しむように遠吠えをし続けたそうです。

「そうそう、最近では雷雨の日に石井さんが怖がって会社から帰れなかった時に、空に向かって、うるさい黙れ! って怒鳴ったら雷が止んだんだって、すごいよね」

 今日は私の知らなかった情報に、驚くことばかりです。

「でも酔っていたとはいえ、大事なものを取り上げるのは駄目だよね」

 杉田さん苦笑いを浮かべ話すと、気付いたかのように悲しい表情になりました。

「でも、近くにいたのに行動に移し止められなかった僕も悪いよね、ごめんなさい」

 そんな自分に非は無いのに、謝る杉田さんの言葉に、こっちが申し訳ない気持ちになってしまいます。
 私達は駅までの間、話が途絶えることなく色々な会話をしていました。

 杉田さんの優しいしゃべり方と、降り続く小雨のせいか、夜の街灯りをキラキラと輝かせています。
 そんな中、杉田さんは思い出したかのように私のノートの話をします。

「でも不思議なノートだね、どんな仕組みになっているの?」

「えっ、何がですか」

 私は杉田さんの質問の意味が、理解出来ませんでした。

「ほら、ノートの女の子動いて見えるから」 

 その言葉の意味がわかると、驚くあまり歩くことを止めていました。