会社の前で扉を開ける勇気が無く立っている私に、親切に声をかけてくれた方がいました。

「面接の子、大丈夫だよ緊張しなくて」

 後ろから現れると扉を開け、私を誘導するように招き入れてくれました。
 面接の場となる応接室に行く間も、当たり前のように話してくれます。

「とりあえずトイレがそこだから、先にいってくれば」

 勧められ出てくると、その方は私のことを、近くで待っていてくる程でした。
 緊張のあまり記憶が薄れていましたが、初対面の私に優しくしてくれた女性。
 その記憶を思い出し、それは桜井さんだったことに気付きました。

 移動する電車の中では、鈴野さんと森川さんが席に座り、仲良く喋っています。
 普段見慣れないその関係にも、意外性を感じていました。
 その光景はどことなく、鈴野さんがはしゃぎ幼く見えます。

 積極的に話していることから、森川さんのことを親しんでいることが感じ取れました。
 石井さんも二人の前に立ち、話を聞いています。
 何気なく見渡した車内では、私達同様、仕事終わりに帰宅する方達が多く乗っていました。

 少し違うのは、私達が楽しそうに会話をしていることです。
 その光景は、他の方達から少し注目をされ、恥ずかしいような気持ちにもなっていました。

 側にいるだけの私でしたが、このグループの一人です。
 慣れていないせいか、冷静な気持ちでそんなことを考え嬉しく感じていました。
 
 ボーリング場に着くと、杉田さんはいつもよりテンションが高いのか、手を大きく振っています。

「もう直ぐ時間でーす」

 隣にいる橘専務は、マイボールと思われる大きなバックを、持っていました。

 私達がレーンに向かう中、森川さんと杉田さんはゲーム後の宴会の場所や、領収書の話をしていました。
 このような遊びの時間でも、誰かが影で仕事をしている、そんなことがわかると感謝の気持ちを感じていました。
 せっかく来たから楽しもう。

 みんなで作るこの時間を、大事にしようと思いました。