私には生まれつき、左肩から背中にかけてアザがあります。
 少し醜くも感じ、自分自身を消極的に作り上げていました。
 
 幼少期には近所の男の子にそのことをからかわれると、アザに対するコンプレックスより、人に対する恐怖感が生まれていました。 
 

 大人になりそんな感情は薄れていましたが、今日に限って滲み出るかのように思い出されます。
 何故でしょう? 今日は何だか寂しい気持ちです。
 
 手でつかむように、アザを覆いました。
 隠しきれないアザからは、昔の記憶が蘇るようで、視線を逸らしてしまいます。
 
 辛くなると、振り払えない記憶から、逃げるようにお風呂に入りました。


 その日の夜、明日は休日のこともあり、遅くまで起きていました。
 テレビも無く普段からラジオもあまり点けることの無いこの部屋は、時計の秒針音が聞こえるほど、静かに時が過ぎ去ります。
 
 私は楽しみを見つけようと、考えました。
「そうだ、今日頂いたノート」


 ノートを開き、無意識のまま絵を描き始めました。
 鉛筆を斜めに軽く当て、細い線を重ねるように描き進めます。
 描き上げて行ったのは、幼い女の子です。
 よく知る寂しそうな女の子。その子は、幼少期の私でした。


 記憶は薄れているものの写真で得た情報を重ね、当時着ていたワンピースや、母に切ってもらっていた、おかっぱのような髪型。
 昔を思いながら描いていました。
 ノートに描き上がって行く幼少期の自分。その彼女を見つめ考えることがありました。
 

 友人を作らないことで、人や言葉で傷つくことは無いと考えたのだと思います。
 寂しい気持ちは多少ありましたが、その分心は楽でした。
 
 アザに対する心の痛みは、成長するにつれわずかながら薄れていきましたが、現在では、ただ人を避けているだけの大人になっています。


 不安な気持ちになり、自分に問いかける思いでした。
 本当にこのままで、いいのでしょうか。
 鉛筆の芯が折れ、我に帰ると、無意識のまま彼女にもアザを描き足していることに気がつきました。
 
 すぐさま鉛筆を離し、描き上がった彼女を意識すると、悲しそうに見つめています。
 そんな彼女に、言い訳をするようにつぶやきました。

「いいんだ。だって、一人でも平気だし」

 強がり出た言葉でしたが、目を合わせることが出来なくなると、誤魔化すようにノートを閉じていました。