私が着替える番になると、鈴野さんも一緒に更衣室に入ってきました。振り返り目が合うと優しく微笑みながら私の背中にそっと手を添えます。
「石井さんに怒られちゃうから、浴衣にあう髪型に直さなきゃね」
その言葉に嬉しい気持ちの中、不安が膨れ上がってきました。
会社に入社し人前で肩を露出する機会が有ると考えてもいなく、思いがけなかったことに緊張が走ります。
私の表情は自然に曇り、うつ向いていました。
あれ、どうしよう急に怖くなってきた。
肩のアザなど、今では気にならないと考えていたのですが、弱い自分を認め始めています。
更衣室の扉が閉まると、社長は足取りが重くなった私に気付き話しかけます。
「どうしたの? 何か気になることが有るの」
その優しい言葉と社長の人柄に、いままで見せることのなかった情けない自分をさらけ出していました。
「……私……生まれつき左肩にアザ有るのですが、そのことをからかわれてから人前で見せるのが……苦手で」
その声は両親以外に初めて明かす、私の気持ちでした。
二人はこんな私を見てどう思ったのでしょう? 楽しい雰囲気を壊してしまった自分が嫌に思えてきました。
すると鈴野さんは自分の両手を並べるようにして見せると、優しい表情で話します。
「私の左手の小指、少しいびつで短いでしょう?」
その言葉のまま、小指を見比べてしまいました。
小指が少し、くの字に曲がっていることがわかります。
そのことを理解すると、考えることを拒否しました。
それ以上の追求は、いけないと感じたからだと思います。
「小さい時にドアに挟んでからなの、田中さんはこの指を見て笑う?」
無言のまま顔を左右に降り、その言葉を否定しました。
「良かった、でも田中さんがそんなことで人を軽視しないこと、わかっていたわ」
鈴野さんはニッコリ笑うと私の肩に手を当て、今度は社長の方に向くように優しく合図を送ります。
社長は姿勢を正し、まっすぐ私を見ていました。
「大丈夫! ここにはあなたと真剣に向き合わない人はいないわ、それにその子も大人になり、今はその言葉に後悔しているのではないかしら」
二人の言葉に安心したのか、思わず感情がこみ上げ顔を歪めてしまいました。
社長は私の腕を軽く叩くと、元気よく声をかけてくれます。
「さあ、着替えましょう」
浴衣を着させてくれている間も、社長は私にこんな言葉をかけてくれました。
「今日は田中さんの思ったこと、感じたことをいつもより多く聞けた気がして何だか嬉しいわ」
その内容は自分自身でも気づいていなかった、言動の変化でした。
そう言えば、今朝も見ず知らず人と会話が出来ていた。
年配の人だから勝手に安心していると思っていたけど、今日は自然に言葉に出そうとしている私が居ます。
どうしてだろう? 考えても理由の見つからない私の頭の中では、子供の時に見た赤いブーゲンビリアと、かすかに見え隠れする小さな白い花が浮かんでいました。
私が着替え終わると、初めて見る浴衣姿に皆さんも喜んでくれているようです。
森川さんも私をまじまじ見て、浴衣にそっと手を触れます。
「いいの選んだじゃない、うん、可愛い」
まるで身内のように喜んでくれています。
「石井さんに怒られちゃうから、浴衣にあう髪型に直さなきゃね」
その言葉に嬉しい気持ちの中、不安が膨れ上がってきました。
会社に入社し人前で肩を露出する機会が有ると考えてもいなく、思いがけなかったことに緊張が走ります。
私の表情は自然に曇り、うつ向いていました。
あれ、どうしよう急に怖くなってきた。
肩のアザなど、今では気にならないと考えていたのですが、弱い自分を認め始めています。
更衣室の扉が閉まると、社長は足取りが重くなった私に気付き話しかけます。
「どうしたの? 何か気になることが有るの」
その優しい言葉と社長の人柄に、いままで見せることのなかった情けない自分をさらけ出していました。
「……私……生まれつき左肩にアザ有るのですが、そのことをからかわれてから人前で見せるのが……苦手で」
その声は両親以外に初めて明かす、私の気持ちでした。
二人はこんな私を見てどう思ったのでしょう? 楽しい雰囲気を壊してしまった自分が嫌に思えてきました。
すると鈴野さんは自分の両手を並べるようにして見せると、優しい表情で話します。
「私の左手の小指、少しいびつで短いでしょう?」
その言葉のまま、小指を見比べてしまいました。
小指が少し、くの字に曲がっていることがわかります。
そのことを理解すると、考えることを拒否しました。
それ以上の追求は、いけないと感じたからだと思います。
「小さい時にドアに挟んでからなの、田中さんはこの指を見て笑う?」
無言のまま顔を左右に降り、その言葉を否定しました。
「良かった、でも田中さんがそんなことで人を軽視しないこと、わかっていたわ」
鈴野さんはニッコリ笑うと私の肩に手を当て、今度は社長の方に向くように優しく合図を送ります。
社長は姿勢を正し、まっすぐ私を見ていました。
「大丈夫! ここにはあなたと真剣に向き合わない人はいないわ、それにその子も大人になり、今はその言葉に後悔しているのではないかしら」
二人の言葉に安心したのか、思わず感情がこみ上げ顔を歪めてしまいました。
社長は私の腕を軽く叩くと、元気よく声をかけてくれます。
「さあ、着替えましょう」
浴衣を着させてくれている間も、社長は私にこんな言葉をかけてくれました。
「今日は田中さんの思ったこと、感じたことをいつもより多く聞けた気がして何だか嬉しいわ」
その内容は自分自身でも気づいていなかった、言動の変化でした。
そう言えば、今朝も見ず知らず人と会話が出来ていた。
年配の人だから勝手に安心していると思っていたけど、今日は自然に言葉に出そうとしている私が居ます。
どうしてだろう? 考えても理由の見つからない私の頭の中では、子供の時に見た赤いブーゲンビリアと、かすかに見え隠れする小さな白い花が浮かんでいました。
私が着替え終わると、初めて見る浴衣姿に皆さんも喜んでくれているようです。
森川さんも私をまじまじ見て、浴衣にそっと手を触れます。
「いいの選んだじゃない、うん、可愛い」
まるで身内のように喜んでくれています。