会社に着くとすでにみんなが出社していて、普段に無い私の服装に声がかかります。
「どうしたのー、今日は決まっているじゃない!」
 鈴野さん、桜井さん、森川さんが私を見て喜んでいます。

 社長も私の肩を優しく持ち、真正面から見えるように角度を変えると褒めてくれています。
「素敵じゃない、とっても可愛らしいわ、見ているだけでワクワクする」
 流石デザイン会社の社員さん達です! 奇抜なセンスに動じない様子です。

 この洋服を譲ってくれた、石井さんの反応を気にしていました。
 信号で有った女性が言うように、喜んでくれているのでしょうか? 
 少し期待を持ち、石井さんを目で探しました。

 石井さんは離れた場所から、こちらを見ているようでした。
 一瞬笑顔にも見えましたが、目が合うと冷静な表情に戻り近づいてきました。
 私は喜んでいるのか、怒っているのかわからず、少し顔を下ろしてしまいます。

「まあーいいじゃない! サイズ的に問題はないんだけど、でもなんかバランス悪いわねー」
 ステキなこの洋服も、私に似合わないことに不愉快になったのでしょうか?
 石井さんは下を向く私の髪を軽く両手で前から後ろに束ねると、考えているような口調で話します。

「うーん、こういう派手な服着た時は、襟元をスッキリ見せるように髪の毛を束ねてみてもいいんじゃない? これからその服装にあった髪型にしてあげるわ」
 気分を損ね、あのような表情をしていたのでは無いことに気付くと、安心のあまり軽率な言葉で答えました。

「ありがとうございます。でも、私そこまでしても綺麗にならないと思います。大丈夫です。あの……洋服が可愛いからそれだけで十分です」
 恥ずかしい気持ちもあり、照れながら答えます。

 石井さんはその言葉に、呆れるかのようなため息ををつくと、近くに有った椅子を指さしていました。
「良いから座りなさい」
 その迫力に圧倒され言われるがまま、椅子に腰を下ろします。
 

 石井さんは腰に手を当てると、力強い口調でしゃべりはじめました。
「田中さんどうして? 可能性が有るのに何故諦めているの。虫ピン一個付けるか、付けないかで変わるなら私は試すわ。だから私はお化粧も頑張るし洋服も真剣に選ぶの、周りは自意識過剰だと思うかもしれないけど、頑張らないで諦める人より努力している人のほうが数倍素敵なことだと思わない?」


 石井さんは服装のことを、私にアドバイスしていたのだと思います。ですが、身だしなみ意外にすごく大事なことを、言われた気がしました。
 何気なく見た森川さんの表情は、私を見て微笑んでいるようです。

 私は、どんな表情をしていたのでしょうか? 
 鈴野さんが髪を優しく持ち上げると、石井さんに確認をしています。

「左右で編み込んで、それを中央でまとめようか」
「いいですね、せっかくだからバンダナも巻きませんか」
 石井さんは自分のカバンからバンダナ取り出し見せると、頭に巻いてから中央で編み込むことを提案していました。

 桜井さんもその間に、私の顔にお化粧をしています。
「田中ー、すっぴんに口紅だけだと子供ぽっすぎるぞ」
 あっ、桜井さんが私に話しかけている。

 今お化粧をしてくれている桜井さんはデザイン担当の方で、年齢は石井さんの一つ上ぐらいでしょうか? 目が鋭いのが特徴的なこともあり一見冷たそうにも見えます。
 話しかけることは出来ませんが、なぜか初めからいい人の印象がありました。

「やべー、濃くしすぎた。これじゃ宝塚だ」
「……」
 状況的に面白がられていましたが、私はいつの間にか、みんなの輪の中に居ました。