受け取った森川さんも、興味を示しながらページをめくります。
 中に何も書かれていないことに気付くと、そのノートらしからぬ外観に、面白がって笑っています。
「やだ、これノートなの?」


 森川さんはノートを閉じ、考えています。
「そう言えば、外国に厚手で大きなノートもあったみたいだけど、これは外見だけ本の様に作った見本品かなー? それとも冗談グッズだったりして」


 ノートを棚に置くと、ポケットに手を入れ何かを取り出しました。

「じゃーん、これ見つけちゃった」

 見せたものは、竹とんぼです。

「この会社はもともと、社長の旦那さんが経営していてね、その頃から製品のサンプルだの、おもちゃなども出てくるのよ、後で事務所にもどったら飛ばして遊びましょうよ」

 弾む声で話した後、再びノートを見ると気付いたかのように手にしました。

 そして背表紙に描かれた花を見て、表情が変わります。

「このノートにも……ペンタスの印がある」

 ノートを見つめる眼差しは、どこか悲しそうにも見えます。


 私はペンタスと言う名のお花が、存在することを初めて知りました。
 そして、森川さんがそのペンタスを見て、なぜそのような表情をしたのか少し疑問にも思いました。

「田中さんが見つけたんだよね……これ会社では使わないと思うからもらっていく? 見た目も素敵だし、ひょっとしたら不思議なノートかもよ」

 そのノートを頂けたことに嬉しく感じると、喜びのあまり森川さんの悲しい表情。
 そして不思議なノートと言う言葉への疑問は、心に残ることは有りませんでした。


 仕事を終え、一人暮らしをするアパートへの帰宅。
 今日と言う平凡な1日は、後数時間もすれば終わります。
 
 夜に近づきお風呂に入るため上着を脱ぐと、今日触れられた肩に手を当て呟いていました。

「今日は何か、意識しちゃったなー」

 最近では余り気にすることのなかった肩を鏡越しに見て、昔を思い出していました。