そんな楽しそうに思い出す二人とは裏腹に、当時の自分をさらけ出しました。

「あの時アザが隠れる水着を用意してくれて、……ほら、近くにもプールが有ったのに、離れた場所に連れって行ってくれたじゃない」

 しゃべりながらも、当時の二人が私のことをどれだけ考えてくれていたかを感じると、ぼやけながらも記憶が蘇ってきます。


 私は周りの人にアザを見せたく無く、学校のプールには参加が出来ずにいました。
 周りの目は少し冷ややかに、影で噂をしていることも知っていました。
 そんな私が他の場所でプールに入り友達に出会っていたら、更に気まずく噂されると両親は考えてくれていたと思います。


 当時の私は、両親の目にどんな風に写っていたのでしょうか、当時どんな思いでそのことを考え相談していたのでしょうか、今は何となくわかる気がします。

「ごめなさい、あの時は……」

 赤い信号が見えると私達の乗る車は、市民プールの前で停車していました。
 車内では車のエンジン音だけ聞こえ、沈黙のまま私の言葉を待っています。
 私は頭で考えた言葉。誰も傷つけない言葉を丁寧に話します。


「本当にあの時は離れた場所に連れていってくれて、子供ながら嬉しかったんだ」
 緊張しながらも、声に出しました。

「お父さん、お母さん、感謝しています」

 その言葉に父は前を向きながら恥ずかしそうに、母は私と目が合うとニッコリ微笑んでいました。
 両親は喜んでくれと感じましたが、何故か心の中のモヤモヤが消えることはありませんでした。 
 日没が近づき辺りが暗くなると、窓に映りこんだ顔も、どこか寂しげな表情をしていることに気づきました。
 

 今後家族三人の記憶は、良い思い出として心に残ると自分に言い聞かせます。
 それでも、言葉を伝えても私の心の曇りは、一生消えることは無いものだと勝手に思っていました。

 信号が変わるまでの間は、昔を懐かしむように市民プールに視線を移していました。
 利用時間がすぎているため、正門は閉ざされた状態です。
 薄暗い中、帰りの車道に近いその場所は正門の表札も読めるほど近づいています。

 昔はあの辺に咲いていたのに。

 残念な気持ちの中、当時咲いていたブーゲンビリアを思い出していました。
 しばらくして後続車が近づき停車すると、その車のライトが市民プールの正門を照らしていました。
 車のライトの光は正門の奥を明るくさせ、私を意識させているようです。


 門の奥に花のようなものがあることに気付くと、姿勢を正すように見つめていました。
「移動されていたんだ」
 そこには無くなってしまったと思っていた、ブーゲンビリアが咲いていました。