少し残念に思いましたが、ノートを広げ出掛け先の風景の絵を見せていました。
 
 内心ミーコが見えるかドキドキしていましたが、やはり両親にも見えず、ミーコはすました顔で両親にお辞儀をしています。


 食事が終え、私と母はお土産で持ってきた羊羹を食べることにしました。
 母は羊羹が気に入ったらしく、しゃべるのを忘れたかのように夢中になって食べています。
 よかった。


 今私を幸せにさせてくれている光景は、そんな母と、母を見つめている父でした。
 

 東京とは違う乾いた風や、静かな場所で聞こえる蝉の声、そんな夏の季節が私に癒しを与えてくれました。
 そうだミーコに見せてあげよう。

「ちょっとお庭観るね」

 思い出したかのように立ち上がると、両親にそのことを伝えノートを持って庭先に出ようとしました。
 ミーコの周りに初めて描いた場所。……いーえ! 初めて会った場所を見せたかったからです。
 

 風が通り抜けるよう、縁側につづく大きな戸は開いてあります。

 
 その戸から顔を覗かすと、夏の日差しが一瞬目の前を明るくさせ、それはやがて鮮やかな色彩で出来た不思議な光景に変わり始めました。
 

 自宅の裏庭に有るはずのない、赤いブーゲンビリアが力強く咲いています。


 嬉しくなり、今までにない大きな声で振り返り尋ねていました。
「お母さん。ブーゲンビリア、植えたの」

 母は微笑んでいます。

「不思議でしょ、今年から咲いているのよ。鳥が運んで来たのかしら」
 久しぶりに見るその花は、私の期待を裏切ること無く鮮やかに染まっています。
「本物だー」
 
 ノートを広げ小声で話しかけました。

「ミーコ、これが本物のブーゲンビリア」

 裏庭であることよりも、私の好きなブーゲンビリアを見せていました。
 ミーコは鮮やかに染まる花を見て、驚いているようです。

「キレイ、ミーコもスケッブックに描きたい」

 笑顔を浮かべながら、ノートに描くことをせがんでいます。
 庭先に置いてあるサンダルを履き、全体が見える位置に移動しました。
 裏庭の風景を描き始めようとすると、不思議なことに気付き動けなくなりました。