実家に着くと、エプロン姿の母が玄関を開け迎えてくれています。
「美代子ちゃん、お帰り」
 昨晩電話で会話したばっかりなのに、とても嬉しそうに話かけます。


 そんな私も何故か今回の帰省が嬉しく、両親が喜びそうなお土産を選び、持ってきていました。
「これ……食べて」
 東京で有名な和菓子店の、羊羹を手渡しました。


 母の会話は靴を脱ぐ動作を妨げるほど続くため、家に上がれ無い父は私の後ろで苦笑いを浮かべています。
 家に上がってからも母の会話が続き、私は荷物を下ろすことが出来ず立ち話をしていました。
 父は呆れるような口調と幸せな笑いの入り混じった声で、話します。

「まあ座ってから、話しなさいよ」

 父の言葉に誘導されるように座った私達でしたが、話に夢中の母は気にしていない様子です。
 私の方に体を向け、会話を続けています。
 しばらくの間、母の話を聞いていた父でしたが、時折台所の方を見ては話すタイミングをうかがっていました。

「ほら、折角食事を準備したのだから、出さないと」

 しぶしぶ台所に向かった母を見つめ、私は少し笑いながら話します。
「お母さん、しゃべりだすと止まら無いね」
 父は嬉しそうに答えます。
「機関銃みたいだね」


 手を口元に持って行き、閉じたり開いたりの動作をしていました。
 出された食事には、私の好きな稲荷寿司と、かんぴょう巻きが有りました。
 私が声を出し喜ぶと、母も嬉しそうに話します。
「美代子ちゃん子供の頃から好きでしょ、昔を思い出して作ってみたの」

 甘く味付けのされたお寿司。

 私は幼少期から稲荷寿司と、かんぴょう巻きが大好きでした。

 母は私の誕生日などのお祝い事には、いつも作ってくれていたので、私はそのお祝いのことがらより、稲荷寿司とかんぴょう巻きを楽しみにしているほどでした。
「ありがとう……作るの大変だったでしょう」

 東京で一人暮らしを始めると、大好きだったことも忘れ、口にすることがありませんでした。