今度は部屋の片隅に大きな鏡と、着せてあげたいと考えていた洋服を、次々と描いていきました。
 ミーコは泣きながらも、出来上がっていくのを見ています。 
 初めて描く鏡や洋服に興味を持ったのか、少しずつ泣き止み見ています。
 ミーコの表情に変化が観られると、私は思い切って声をかけました。


「ミーコちょっと髪の毛をいじるから、立ってみて」
 ゆっくり立ち上がったミーコの髪の毛を鉛筆で少し描き足し、頭には大きなリボンを描きました。

 私は息を整え、何事もなかったような澄ました言葉で話します。
「ミーコ、この鏡に映るかな?」


 不安の中、ミーコは鏡の前に立つと、映っている自分に無言のまま喜びの表情を浮かべました。
 一瞬にして安心とともに疲れが襲ってきました。
 私は心を落ち着かせ話します。

「この中で気に入った洋服あるかな?」

 ミーコは泣いていたことも忘れ、洋服を選んでいました。
 良かった。でもスケッチブックは移動して欲しかった。
 そんな思いが心から離れません。


 本来欲しかったものを違うものでごまかす、自分がズルイ大人に感じ、とても嫌でした。
 一生懸命に描いた絵、ミーコにとって思い出であり宝物です。
 そんな考えは頭から離れることは無く、一緒に移動してほしいと、願っていました。


 ノートの中では、ミーコが一着の洋服を手に持っています。
 選んだのは、プルオーバーのワンピースでした。
 色鉛筆で着色したそのワンピースは、薄いピンクと白色を合わせたものです。

「着替えられる?」

 声をかけると、ミーコは今まで来ていた洋服を脱ぎ始めました。
 コロコロ。
 
 何かがミーコの洋服から転がり落ちました。