駅に着くと、電車が来るまでの数分の立ち話。
 休日に異性と二人でいるシチュエーションは、今まで経験したことがなく、周りからどう見られているか気になります。
 ドキドキっと心臓の音が大きく聞こえてしまい、とても不思議な感覚でした。


「電車が来たのでいきます。送ってくれてありがとうございます」
 いそいそと歩き出すと、杉田さんの声も恥ずかしそうに聞こえます。
「あっ、それじゃ明日」


 改札を通り抜け、高い場所にあるホームまでの階段を登ります。  
 その間、後ろを振り向くと杉田さんは、視界に入るように姿勢を低くし、手を振ってくれていました。
 偶然に会えた今日と言う日は、私に特別なことのように感じさせます。


 杉田さんと別れた後も、私は少し浮かれていたのかもしれません。
 行動的になった私は、帰りの途中に有る大きな駅ビルに向かいました。
 そのビルの屋上には、高さ十メートルぐらいの小さな観覧車と、小さな遊び場があります。


 休日になるとお子さん連れの家族がその場所に集まるので、私達もその雰囲気を楽しみに行きました。
 ノートを広げ、その状況を見せました。
「ミーコ、あれが観覧車」
「なんだーあれはー」


 初めて見る乗り物に、ミーコは驚いています。
 ミーコの笑顔を見て安心ををすると、その日のページには観覧車と遊び場の風景を描きこみます。
 まだ描き上がっていないのにもかかわらず、ミーコもスケッチブックに観覧車を描き始めています。


 小さなスケッチブックに描かれた絵を見て、私はミーコに声をかけました。
「ミーコ、上手だね」
 楽しそうに一生懸命描く姿に、気に入ってくれて良かったと感じていました。

 突き刺す日差しを避けるように、影かかるベンチに座る私は、夏の香りと喜ぶミーコを見て、今幸せなのではないかと自分に問いかけていました。