杉田さんは私に気付くと、一瞬照れるようにうつ向く仕草を見せ、近づいてきました。
 私も休日に会社の人に偶然会うのは、何か嬉しいような照れくさい気持ちです。
「田中さん、どうしたんですか?」


 杉田さんも明るく、声をかけてきてくれました。
「そこの……水門を見に来ました」
 私はなぜか目を合わせることが出来ずに、話しながらも顔が熱くなっていることがわかります。
「そうなんですか、僕はこれから昼ご飯なんですよ」


 手にしているコンビニエンスストアーのビニール袋を少し持ち上げ、私に見せます。
 私達は話題が思いつかず、沈黙が数秒続きました。
 私は意識していると思われるのが恥ずかしく、意を決っして話しました。
「こ、これから駅に行くので……また明日会社で」


 出て来た言葉は、別れの挨拶でした。
 それでも精一杯の笑顔で、立ち去ろうと歩き出します。
「あっ、まって……せっかくですから、駅まで送っていきますよ」


 杉田さんも、顔を赤くして着いてきました。
 横に並ぶ杉田さんは思っていたより背が高く、服装も会社では背広姿しか見ていなかったので、私服はとても新鮮でした。
 白色のポロシャツに、青いジーンズのズボン。 


 年齢的に普通なのでしょうが、会社とは違い幼くも見えます。
 普段はこうゆう服装なんだ。
 今も杉田さんのことを考えている自分に気付くと、恥ずかしくなっていました。
 駅までの間、横二列で並んで歩くとすれ違う人の妨げになるからだと思います。
 杉田さんは人が来る度、私の前に素早く移動するなど周りにも気を使う優しい人だということがわかりました。


 会話にも気を使い、途切れないように色々な話をしてくれました。
 話の内容は正直興味のないことばかりでしたが、流石営業さんです。

 頑張って喋っているのが伝わります。
「ここのラーメン屋は味が濃くて、酔っぱらた後食べるとおいしいんですよー、向こうのうどん屋は、ご飯がおかわり自由で、お腹いっぱいになるまで食べられるから、お得ですよ」

 ふっふっふっ、まるで男友達に話すような内容です。