季節は夏になり、私とミーコは休日になると外出するようになっていました。
 出掛け先の風景をミーコに見せた後、その風景を私が描き同じ空間を楽しんでいます。
 海に行けば海を描き、山に行けば山を描いていました。


 外でノートに絵を描いているので、たまに通りがかりの人が覗き込むことはありますが、私意外ミーコが見えないらしく、ノートを開くことに抵抗は無くなっていました。
 残念ながらミーコがページを移動することは日々続いているので、いつの間にかノート内はミーコの部屋と、様々な景色の組み合わさった物になっています。
 

 今日は電車で数十分の場所にある、川の水門に出掛けています。
 この水門は昭和の初期からある古い造りになっていて、私はその歴史ある風貌を楽しみに来たのですが、ミーコは水門を何故か怖がりノートに描くことを拒否していました。
「嫌だー怖いからー描いちゃダメー」
「わかった、わかったからー、描かないから」
「帰ろうよー、ここから帰ろー」


 ミーコはすぐにでも、この場所から離れようと大声を出しています。
 ミーコの声が聞こえるのは私だけですが、やはり子供が嫌がる声は可哀そうになり、心に突き刺さります。
 そう言えば私も幼い頃、大きな煙突が怖く見られないことがありました。
 

 ミーコも同じような感覚なのでしょうか? 何となく気持ちがわかる気がします。
 仕方なく場所を変えようと駅に向かって歩いていると、会社で同期の杉田さんが前から歩いてきました。
 そうか杉田さんは、この辺に住んでいたのでした。
 

 私は会社の作業で社員の住所を確認することがあり、皆さんが大体どの辺に住んでいるのか把握していました。
 私は色鉛筆の一件以来、何故か杉田さんのことが気になっていました。
 心の片隅で、もしかして好かれているのでは? 
 イヤ、そんなことは無い。
 自分に言い聞かせるよう否定していますが、異性として意識してしまいます。