今日の作業は、何年も行っていなかった資材整理の日のようです。 

 そこは不自然に、小さな入り口が設置されていました。
 森川さんがドアノブを掴むと、顔を向け話します。

「これから中に入るけど、もし黒いペンを見かけたら教えてくれる? 使えなくても、壊れていても声をかけてね」


 変わった内容の指示に、無言のまま頷くと、森川さんは意を決したように、かがみながら中に入って行きました。
 後から室内に入ると、何故だかそこは、ジャスミンに似た香りがしました。

 中には大きな棚一つ設置され、書類の入ったダンボールや、筆記用具などの資材が置かれています。
 
 それらを区別し廃棄という内容は、決して華やかではなく地味な作業でした。

「……あの、これは捨てても、よろしいですか?」

「田中さんちょっと待って、その段ボール重いから一緒に持とうか」

 一つの荷物を対面でつかむと、森川さんは合図をかけます。
「よし、行くよ。いっせーの、せっ……って言ってから持とうか」
 
 森川さんはひょうきんな人で、時折このような悪ふざけをします。
 わざとタイミングをずらし、私だけ荷物を持ち上げると、その場の雰囲気を明るくするため笑いながら話します。

「フッフッフッフッ、引っかかったなー」

 今まで冗談を言い合った経験の無い私は、どんな対応をしていいかわからず、目も合わせないまま微笑みました。


 資材が入っているダンボール以外にも、様々なものが置かれています。
 使われなくなったソロバンや、大きな三角定規、中には動いていない置き時計なども出てきました。

 この時計何かの記念品かな? 祝十周年昭和四十七年って書いてある、今から十年位前の品物だ。