ミーコとの出会いからか、他人の笑顔に抵抗感のような気持ちを、抱くことは無くなっていました。
 その感情の変化は何故なのか、自分でもわからないでいます。
 今日は週末の土曜日。
 

 会社は午前中で終わるので仕事の内容はいつもより少なく、皆笑顔で雑談を混じえながら働いています。
 社内で笑い声が聞こえると、ノートの中でミーコもつられて笑っています。
「あっはっはっは、笑い声。面白い」
 
 ミーコは声の聞こえる方向に、指を差し話します。
 私もそんなミーコにつられ笑顔になります。
「本当だね、面白いね」


 私の席の近くでも、社長と森川さんが会話をしています。
「私がやりますよ!」
「いいから、あなたは座ってなさい」

 聞こえてくる言葉はまるで、親戚のおばさん達のような会話です。 
 森川さんと目が会うと、笑顔で合図を送っていました。
 私はそれに気付くと席から立ちあがり、近寄っていきました。


「これ社長からいただいたから、配るの手伝ってくれる」
 手渡されたのは、焼き菓子の瓦せんべいでした。
 その言葉に反応して、専務も声をかけてきます。


「僕の友達が洋菓子のお店を開いたんだけど、これもらったから、一緒に配ってくれませんか」
 専務は面接時に社長と同席していましたが、物静かな印象があり、今まで会話することはあまりありませんでした、
 今回声をかけられたのも、久しぶりかもしれません。


 手渡された物は、小分けにされた紙袋です。
 大きさ的には、手の平に乗るほどの小さな物でした。
 私と森川さんは社長から頂いた瓦せんべいと、専務から頂いたお菓子と思われる紙袋をみんなに配りました。
「社長からです。こちらは専務からです」
 みんなの話は、配られたお菓子の話題に変わります。


「うわーありがとう。瓦せんべい、おいしいよねー」
「専務から頂いた紙袋、中身は何だろう」
「外装の雰囲気から中身はチョコかな?」
 喜んでいるみんなに、森川さんが説明をします。

「専務のお友達が、お店を開いたそうよ」
 その説明に、驚いたような声が聞こえます。
「お店を出したなんて、凄いなー」
「洋菓子店かおしゃれだねー」
 誉めたたえる声が聞こえると、専務も嬉しそうに下を向いています。


 みんなは仕事そっちのけで、洋菓子店の話に夢中になっています。
 すると石井さんの、驚く声が聞こえてきました。
「うわーこの紙袋すごく可愛いっ」


 そんな言葉に今度は、紙袋を見始めます。
 その紙袋は全体が紺色で、オレンジ色の丸模様が入っています。
 中央に書かれた店名の文字もオレンジ色で、うねるようなデザインが、されていました。


「確かに色使いが可愛いし、文字から甘さが伝わってくるね」
 私はその会話を聞き、紙袋のデザインを気にするなんて、職業柄であることを感じました。
 席に着き、斜向かいに視線を向けると、専務は今まで見たことのない笑顔で目を閉じています。


 さらにひと際大きな声が聞こえます。
「持ち紐は黒色に、変えている所がまたニクいよね」
 その声は営業の杉田さんの先輩にあたる、高木さんでした。