私達が二人の前に着くと、洋服が描かれている紙を見せるように机に置き、さあ聞いてくださいっと言わんばかりに石井さんは強調するように話します。
「田中さん、もう一度言ってみて」
恐怖のあまり戸惑っていると、石井さんはアイコンタクトをとりながら、つぶやきます。
「さっき言っていた、絵を描いた理由よ」
私は言われるがまま恐る恐る説明すると、繰り返すように二人に説明し始めます。
「田中さんが私の服装を、とーっても素敵で可愛いって言うんですよー」
嬉しそうに聞こえる声色に、更に戸惑い横目で見ました。
石井さんは澄ました表情で背筋を伸ばし、自身の洋服を見せるように腕を広げます。
「まあ、確かにこの辺でここまで決めている女性はいないと思うけど、私を見本にするなんて中々見所有ると思いません?」
自身の髪の毛に手を当てたかと思うと、先ほどの洋服の描かれた紙を、ちょこちょこ見せるように動かしています。
しばらくの間沈黙が続くと、近くに居た先輩女性の桜井さんに問いかけました。
「どお思います?」
笑顔を作り、良い言葉を催促しているようです。
桜井さんは石井さんの肩を軽く二回叩き「ハイッハイッ」と、呆れたように返事を返します。
私は石井さんのテンションに圧倒され、立ちすくんだ状態のままでいました。
頭の中では、このまま怒られること無く、早くこの場を立ち去りたいと考えるばかりです。
そんなやり取りをする二人の横では、鈴野さんが私の描いた絵を手に取り沈黙しています。
人差し指を軽く曲げた状態で顎の上に当て、真剣な眼差しで考えているようにもうかがえます。
鈴野さんはデザイン担当の中では、一番年上の女性です。
とても綺麗な方ですが、入社した時から笑った表情を見たことが有りません。
デザインのリーダーを任され、社長の面倒を見るように寄り添っていることから、常に厳しい印象を持っています。
そんな鈴野さんが私の描いた絵を見ていることは、ある意味石井さんに怒られるより、冷たい評価をされるのではないかと、不安が膨らみます。
鈴野さんは鉛筆を持つと、紙に描いた洋服のラインを直していきました。
「本当はこう表現したかったんじゃないかしら?」
鈴野さんが描いたラインは、私がただ脇からウエストまで一本の線で膨らませたものではなく。脇から胸元、胸元からウエストへと区切ったラインでした。
私は自分が表現出来なかった描き方に興味し見ていましたが、今何がおこっているのか、気付くのに時間がかかりました。
鈴野さんはその絵を見つめ、更に考えているようです。
「そうするとここも膨らめせたいわよね」
今度は袖を膨らませ、そこに細かいシャーリングを入れて行きます。
最初に描いた洋服より柔らかく、軽い印象を与えます。
「うーんいいんじゃない」
納得するように自分に言い聞かせると、その絵を私に渡し囁くように話しました。
「柔らかい表現って難しいわよね。こんな表現方法もあるけど、どうかな? これからも色々観察して、どんどん描いてみるといいわ」
鈴野さんは目を合わせ、笑顔を見せてくれました。
始めて見るその表情は、それまでの印象を消し去ります。
「あ、ありがとうございます」
気が付くと、自然にお礼の言葉がこぼれます。
私の描いた絵を、頭ごなしに否定されることは無かった。
むしろ真剣に向き合ってくれて、アドバイスまでくれているようでした。
今まで勝手に冷たい人だと決めつけていた自分を思うと、その場に居づらく、小走りで自分の席に向かっていました。
席に近づくと、森川さんがすでに戻って来ていて、一枚の紙に何かを描き終えていました。
「ほら、田中さん凄く緊張していたよ」
笑顔で差し出したので、冗談で描いたものだとわかります。
そこには四人で会話し、私が困っている表情が描かれていました。
みっともないな、こんなに情けない顔して……でも。
森川さんの言葉も薄れる程、私はその絵が気になります。
その中に描かれていた私達は、距離を感じることはなく、何故か幸せそうに観えたからです。
「田中さん、もう一度言ってみて」
恐怖のあまり戸惑っていると、石井さんはアイコンタクトをとりながら、つぶやきます。
「さっき言っていた、絵を描いた理由よ」
私は言われるがまま恐る恐る説明すると、繰り返すように二人に説明し始めます。
「田中さんが私の服装を、とーっても素敵で可愛いって言うんですよー」
嬉しそうに聞こえる声色に、更に戸惑い横目で見ました。
石井さんは澄ました表情で背筋を伸ばし、自身の洋服を見せるように腕を広げます。
「まあ、確かにこの辺でここまで決めている女性はいないと思うけど、私を見本にするなんて中々見所有ると思いません?」
自身の髪の毛に手を当てたかと思うと、先ほどの洋服の描かれた紙を、ちょこちょこ見せるように動かしています。
しばらくの間沈黙が続くと、近くに居た先輩女性の桜井さんに問いかけました。
「どお思います?」
笑顔を作り、良い言葉を催促しているようです。
桜井さんは石井さんの肩を軽く二回叩き「ハイッハイッ」と、呆れたように返事を返します。
私は石井さんのテンションに圧倒され、立ちすくんだ状態のままでいました。
頭の中では、このまま怒られること無く、早くこの場を立ち去りたいと考えるばかりです。
そんなやり取りをする二人の横では、鈴野さんが私の描いた絵を手に取り沈黙しています。
人差し指を軽く曲げた状態で顎の上に当て、真剣な眼差しで考えているようにもうかがえます。
鈴野さんはデザイン担当の中では、一番年上の女性です。
とても綺麗な方ですが、入社した時から笑った表情を見たことが有りません。
デザインのリーダーを任され、社長の面倒を見るように寄り添っていることから、常に厳しい印象を持っています。
そんな鈴野さんが私の描いた絵を見ていることは、ある意味石井さんに怒られるより、冷たい評価をされるのではないかと、不安が膨らみます。
鈴野さんは鉛筆を持つと、紙に描いた洋服のラインを直していきました。
「本当はこう表現したかったんじゃないかしら?」
鈴野さんが描いたラインは、私がただ脇からウエストまで一本の線で膨らませたものではなく。脇から胸元、胸元からウエストへと区切ったラインでした。
私は自分が表現出来なかった描き方に興味し見ていましたが、今何がおこっているのか、気付くのに時間がかかりました。
鈴野さんはその絵を見つめ、更に考えているようです。
「そうするとここも膨らめせたいわよね」
今度は袖を膨らませ、そこに細かいシャーリングを入れて行きます。
最初に描いた洋服より柔らかく、軽い印象を与えます。
「うーんいいんじゃない」
納得するように自分に言い聞かせると、その絵を私に渡し囁くように話しました。
「柔らかい表現って難しいわよね。こんな表現方法もあるけど、どうかな? これからも色々観察して、どんどん描いてみるといいわ」
鈴野さんは目を合わせ、笑顔を見せてくれました。
始めて見るその表情は、それまでの印象を消し去ります。
「あ、ありがとうございます」
気が付くと、自然にお礼の言葉がこぼれます。
私の描いた絵を、頭ごなしに否定されることは無かった。
むしろ真剣に向き合ってくれて、アドバイスまでくれているようでした。
今まで勝手に冷たい人だと決めつけていた自分を思うと、その場に居づらく、小走りで自分の席に向かっていました。
席に近づくと、森川さんがすでに戻って来ていて、一枚の紙に何かを描き終えていました。
「ほら、田中さん凄く緊張していたよ」
笑顔で差し出したので、冗談で描いたものだとわかります。
そこには四人で会話し、私が困っている表情が描かれていました。
みっともないな、こんなに情けない顔して……でも。
森川さんの言葉も薄れる程、私はその絵が気になります。
その中に描かれていた私達は、距離を感じることはなく、何故か幸せそうに観えたからです。