翌日ミーコの部屋に朝食を描き、左のページには川の絵を描きました。
 会社の近くにも、県境の大きな川が流れていますが、ノートに描いた川はそれとは違い小さく、ミーコでも溺れないようにと、考えた結果です。
 

 描き上がると、かすかに優しく流れる川の音が聞こえ少し癒されます。
 今日も会社にノートを持っていけることは安心感があり、少し楽しみのように感じます。
 昨日の森川さんの話にあった雨が降り出したことを考え、カバンにはノート全体を被せられる、大きなスーパーマーケットのレジ袋を、二枚たたんで持っていくことにしました。 
 

 季節は夏に近づき、雨の降りやすい季節です。
 蒸し暑くも感じる時期に自転車で降りる下り坂は、風が気持ち良く肌に感じます。
 こんな些細のことが楽しく思うなんて、今まで感じたことはありませんでした。
 
 会社に着くと森川さんはいつものように、私より早く会社に出勤していました。
 挨拶をし、昨日相談に乗っていただいたことの、お礼をします。
「昨日はありがとうございました。……ノート、持ってきました」
 私はカバンからノートを取り出そうとすると、森川さんも待ち構えていたかのように机横に置いてあった紙袋を取り出し、私に手渡します。


「はい、昨日言っていた、ビニール製のカバン」
 私は早速持ってきていただいたことに、驚きました。
「出して見て」
 森川さんは私が喜ぶのを待っているかのように、急がせます。


 いただいたカバンは、黒色の正三角柱のような形状でした。
 ビニール製と聞いていたので、柔らかく肉厚の薄いものを想像していたのですが、想像とは違い頑丈な作りをしていました。
 素材は人工革だったのですが、森川さんはざっくりした表現をしたようでした。


「このカバンは雨の日に書類を持ち運ぶのに使っていたんだけど、結構いいのよー、サイズ的に書類の他にも色々入れられるし」
 森川さんは説明に夢中になるあまり、一度手渡したカバンを私から取り上げると、ファスナー開け中を見せたり、カバンを肩にかけポーズをとって見せたりしています。
 頭からかぶり、帽子にもなると、ふざけたりもしました。
 

 私は雨対策が出来たことと、見た目が大人ぽく素敵なことに嬉しくなり、何度もお礼を言いながらカバンを見て喜んでいました。
「ありがとうございます。とっても素敵です。ありがとうございます」
 席についてからもいただいたカバンを見て喜んでいると、少し後に出社した石井さんが、私達の方に近づいてきました。
「森川さん、おはようございます」


 石井さんは横にいた森川さんに挨拶をした後、私の方を見ました。
 そして、少しぶっきらぼうにも聞こえる口調で、話しかけてきます。
「田中さんおはよう、そのカバンどうしたの?」
 質問されたことに体が硬直してしまいます。
 

 今まで挨拶程度しか言葉を交わしたことはなかったので、話しかけられたことにも戸惑いました。
 石井さんは無言でカバンを手に持つと、ポケットの数や大きさ、ファスナーを開けたり閉めたりして、機能性を確認しているようでした。