まるでクレヨンのように芯が柔らかく、ノートの上を滑るように塗れます。
「杉田さんの言っていた面白い感覚とは、このことだったんだ」
 私はその塗り心地と、ノートの空を鮮やかに染めていく色鉛筆の色を楽しみながら、一時の喜びを実感していました。


 窓から見える夕焼けの空は眩しいながらも、優しく悲しい色をしています。
 その景色を参考に色づけていくと、現実の空も私に答えるように、染め上げていくようでした。
 夕焼けを楽しむのは何年ぶりだろう? そんなことを思いながら、雰囲気を出すため、ノートの公園内に補助輪付きの自転車を描き足しました。
 

 そこから長く伸びる影を引くと、ミーコもそれを見て、無言で喜んでいるように思えます。
「何だろう? この夕日、以前に見たことがある」
 そんな不思議な感覚が芽生え、私は窓から顔を出し夕焼け空を見ていました。
 

 東京に来てから何度も夕日を見る機会がありましたが、今日の夕日はそれとは違う懐かしさを感じさせます。
 子供の時に見たのかな。
 何か思い出せ無いことがあるのかな。 


 私は夕日に照らされながらそんなことを考えていると、理由のわからない涙がこぼれそうになっていました。 
 そしてある考え浮かぶと同時に、言葉が出ていました。
「ミーコ、絵を描いてみない」
 

 早速ミーコの部屋に鉛筆とスケッチブックの絵を描き始めると、ミーコは側に寄り見ています。
 描き上がると鉛筆とスケッチブックを不思議そうに持ち、ミーコは考えていました。
 おもむろに線を引くと、ミーコは振り返り笑っています。


 ぐるぐるした渦や三角を描くと、また振り返り喜んでいます。
 ミーコに伝えられる楽しみが見つけられたと思うと、私は嬉しくなっていました。
 そして、その喜びは私の力に変わります。
 

 一歩踏み出してみよう。私の中で小さな決意が生まれていました。