花はしばらく沈黙していましたが、ゆっくり葉を持ち上げ理解したように、微笑んでいるようです。
 不思議。本当に気持ちが通じているみたい。
 その花に触れてみたくなると、無意識に手を伸ばしていました。
 

 遠くから聞こえていた子供の遊ぶ声や車の走り去る音は、いつの間にか、上空から聞こえる風の音でかき消されていました。
 ひゅーっ、ひゅーっと、鳴り止むことのない力強い音。
 ですが不思議とその風は、私の元におとづれることは、ありませんでした。
 手を止め空を見上げると、形を変えることのなかったあかね雲は、左から右に凄い勢いで押し流されていました。
 

 追いやられるように雲が集まると、再び、上空には水色の空が現れます。
 東の空には、青黒く染まる夜空も顔を出していましたが、せき止められるようで、広がることはありませんでした。
 暗い夜のおとづれ。足元の燃えるような夕日。そして上空の明るい空。
 まるで昼と夜の狭間を見ているようです。
 
 今まで見たことのない光景に、恐怖に似たものを覚えます。
 私は立ち上がり、後退ります。
 

 改めて見た空には、一番星だけが小さく輝いていました。
 その星はまっすぐに見つめるかのようで、気味が悪いと思うと、その場から逃げるように立ち去っていました。