『…ちょうど良かったです。私あなたに言いたいことがあったんですよ』
「……なに?」
『志帆さん…って、知ってます?』
志帆さんの名前を口にすると…遊佐くんの表情が一瞬だけ曇った。
『篠宮の彼女、志帆さん。高校を卒業するまで篠宮は…志帆さんの彼氏なんだって』
「…は?なんの話し?」
『って…なるよね。バカなんだよ篠宮って。多分本当は遊佐くんに相談したくて堪らなかったと思う。でもあの人変なところ頑固っていうか…多分しょーもないプライドみたいな物があるんだろうね……過去、遊佐くんに酷いことを言ってしまった手前、自分から歩み寄るなんてことは出来なかったんだと思う…バカだから』
こんな風にダラダラと篠宮の話しをしているのは─…聞かれたくないから。私がさっき何をしようとしたのか、なんで裸足なのか…とか。
遊佐くんに、何も聞かれたくなかったから。
「……ふーん、そーなんだ。」
篠宮と志帆さんのことを聞いても…遊佐くんは怒ることもなければ、声をあげることもなく…ただ静かに何かを考えるような素振りを見せて
「─…で?なんで、裸足で国道に飛び出そうとしてたの?」
なんて。さっきの私のダラダラと長い話なんて無かったかのように…聞かれたくないことを的確についてくるこの男を─…
殴りたくなったけどグッと堪えて我慢する。
「麻斗、呼べば?悪いけど俺はアンタを送ってやるほど良い奴じゃないよ」
私だって、篠宮に会いたいよ。会いたいけどそれは無理だから、
「バカなのは、アンタでしょ。頭の悪い女って本当に嫌い」
隣でため息を吐かれて…堪らなくなって握っていた拳を遊佐くんに向かって振り上げた