「ソイツ、喧嘩弱いくせに…志帆を守るために必死で刃向かってさ…それでも人数が向こうの方が多くてどうしようも無くてっ…ボロボロになった頃、俺に連絡してきてっ、」
【麻斗っ…たすけてっ、】
「言われた場所に着いた時、倒れてるアイツが視界に入ったけど…まずは志帆を助けてやらないと、酷いことをされそうになってたから…俺はっ…志帆の安全を最優先に考えた」
ねぇ…篠宮、なんの話ししてるの?
篠宮が握っている拳が震えている。まるで思い出したくない…っと、身体が拒否しているみたいに─…
「………殴られたり、したみたいで。志帆の頬は凄く腫れてた。父親からしたら許せねぇ話だよな。娘になんてことしてくれたんだって…なるだろ?」
どうだろう…私のお父さんはそんな人ではないから、分からない。
「俺が志帆の面倒を見るのは、俺の責任。志帆を弄ばれるような最悪の状況は防げた…けど、あの時もっと早く行ってやれば、ケガをさせずに済んだかもしれないから」
分からないよ、篠宮─…どうして篠宮なの?最初から一緒に居たのが志帆さんの好きな篠宮の友達なら…今も、その"友達"が志帆さんを守ってあげれば…良くない?
私のそんな思いが篠宮に伝わったのか…篠宮は目を伏せて、視線を窓の外に向ける。
「─…無理なんだ、」
『…え?』
「アイツだって、出来ることなら俺なんかに志帆を任せたくないだろーし…きっと、今でも自分が志帆のそばに居たいと思ってるハズだ」
『だったら─…』
「出来ないんだよ。もう、会えない。アイツには─…勇牙《ゆうが》には、もう二度と会えない」
少し震えている篠宮の声が…その話が冗談ではないことを私に伝える。もしかしたら篠宮は…私が思っているより遥かに重いモノを背負って生きているのかもしれない。