「うん…約束ね。っあ…でも、藍ちゃんになら俺、殴られてもいーよ?」
───は?さっき、暴力はやめろって、
「俺、藍ちゃんより強いから。自分より弱いって分かってる相手に何かしようとは思わない。だから俺のことは殴ってもいいよ。その代わり、俺以外の人間に手を出すのはダメ…分かった?」
この人、ドMなんか?
私のサンドバッグになりたいってこと?
『…分かった。殴りたくなったら篠宮を探す』
「んー…そういう事じゃ無いんだけど、、」
無駄話に花を咲かせている間に、自宅へと到着してしまった。
『じゃ、ここ…私の家だから。また明日ね』
一軒家の敷地内に足を踏み入れようとして…思いとどまり、振り返って麻斗の顔を眺める
「………っえ、なに藍ちゃ、」
『さっきはバスを止めてくれてありがとう。クラスメイトと話すきっかけをくれてありがとう。気をつけて帰ってね─…麻斗』
早口でそれだけ告げて、篠宮に背を向け門をくぐって敷地内に入った。
「可愛すぎて死ぬうぅぅうっ!!!」
後ろから何やら叫び声が聞こえたが無視して自宅へと帰宅する。
「おかえりなさい、藍ちゃん」
『ただいま、間宮《まみや》さん』
家に帰っても出迎えてくれるのは家族ではない。長年ウチに勤めている家政婦の間宮さん。
少しばかり裕福なうちの家庭に、家族団欒という言葉は存在しない。最後に会ったのは病院から退院する日。手続きを済ませてくれた父親を見たのが最後
私の家族は─…みんな、とても忙しい。