「美優さん、おはようございます」
「千穂ちゃんおはよう」

営業二課のスペースまで来たところで、事務職の太田千穂ちゃんに声をかけられた。
千穂ちゃんは石田君と同じ入社2年目の24歳。
営業二課の事務を担当してくれているから関わることも多いのだけれど、仕事が丁寧で周囲からも信頼される子だ。

「太田は名前呼びでもいいんですか?」

後ろからついて歩いていた石田君の不満そうな顔。

「それは・・・」

同性だからとか、千穂ちゃんは内勤で外へ営業に出ることもないからとか理由はあるけれど、千穂ちゃんはその場その場で状況判断ができる子だからというのが一番大きい。
でもそれを言うと石田君が文句を言いそうで、私は黙ってしまった。

「そう言えば聞きました?新しい営業部長が来るって話」
珍しく、千穂ちゃんが興奮気味に言う。

「うん、聞いたよ」

10日ほど前に、課長から聞かされた。
新部長は、入社5年目の大抜擢。
2年前大阪支社に課長職として行った彼が、本社営業部長として戻ってくるのだ。

「チーフの同期なんですよね?」
「うん」

今度はちゃんとチーフと呼んでくれた石田君に、私は小さくうなずいた。