その頃警察は、枯田と選挙参謀とパソコンショップのオーナーの近親者に動機がないかどうか調べていた。
 選挙違反で捕まったことに大きな影響を受けた人物の存在を探っていたのだ。
 
 すると、刻々と期限が迫る中、一人の男が浮かんできた。
 その男は就職が内定していた企業から取り消しを受けていた。
 理由は親の逮捕であり、復讐を考えるのに十分すぎる動機と思われた。
          
 その男は当時大学4年生で、第一志望のIT企業から内定通知を受け取り、天にも昇る気持ちになっていた。
 しかし、親の逮捕で一変した。
 地獄へ突き落されたのだ。
 彼は父親を恨んだが、それ以上に、父親を(おとし)めた選対本部長の弟を恨んだ。
 いや、憎しみを持った。
 自分の人生を無茶苦茶にしたこの男の人生を破滅させてやると決めた。
 それだけでなく、この男に指図したであろう桜田に復讐することも決めた。
 
 男は選対本部長の弟の行動を観察するために、探偵事務所に素行調査を依頼することにした。
 浮気など他人には言えないような行動を掴むためだ。
 金額を聞くと、30万円から50万円くらいを考えておいてくださいと言われた。
 その上、状況によっては上乗せもあるという。
 それを聞いてちょっと高いと思ったが、「二人一組で行動するのが基本なので」と言われて納得した。
 卒業旅行のために貯めた金が60万円ほどあったので、なんとかなると思ってその場で依頼した。
 弟の顔写真と住所を記した紙を置いて事務所を出た。