少ししてボールペンを持つ手が動き、『学校運営の方針変更等の改革・改善は漸進的なものであること』という文章の中の『漸』という漢字の上で止まった。
 ごくりと唾を飲み込んだ。
 自分の決意を確かめるような音だった。
 
『漸』という字にメスを入れるように、ボールペンで〈さんずい〉を消した。
『斬』という字になった。
 そして、『進』を二重線で消して、その横に『新』と書き加えた。
漸進(ぜんしん)』が『斬新(ざんしん)』になり、意味が変わった。
『少しずつ進歩すること』から『発想が独自でそれまでにまったく類のないさま』へと一変した。

 斬新の文字に赤いボールペンで丸を付けた。
 その瞬間、堅岩の覚悟が決まった。
 熟慮を重ねて決意を導き出した目が、公立中学校教育の将来を見つめていた。