「…忘れるなよ」

「あ?」


髪を掴む腕を強く掴み返し、背後にいるその勘違い男にニッコリと笑って見せた。



「ルナのお気に入りはお前じゃなくてこの俺だ」



お前らに俺の言う事を聞く能なんて毛頭ないだろう。
何故なら俺はお前らと同様、ルナに堕ちている人間だから。

黙ったまま手をパッと離されて髪の毛が自由になった。
そして盛大に舌打ちをされた。


「…浅田、行くぞ。僕は僕でルナちゃんを探す」

「後悔すんなよ〜。真央チャン」


1番狂ったようにルナを崇拝しているのはあいつだ。
ルナの冷酷無慈悲なやり方を昔から真央は目をキラキラさせながら嬉しそうにしながら見ていた。
新しいおもちゃを買ってもらった小さい子供のように。

その様は本当に不気味で気持ち悪い。

そんな真央が今のルナを見たらどう思うだろうか。
『僕の知ってるルナちゃんじゃない』とヒステリックを起こし、殺しそうだなと簡単に想像できる。


髪の毛を整えながらポケットに入っていたスマホを取り出し連絡先を辿っていく。


ルナが居なくなった夜は騒々しく落ち着きがない。
たった1人の女が居なくなっただけでこうも荒れるのか、と思うとそれはそれで面白い。

皆、それほどルナを中心に生きてきたのだ。


「…あ、もしもし?ちょっと頼みたい事があんだけど」


久住には申し訳ないが、荒療治でもツキに記憶を取り戻してもらわないと。