急に足を止めた私に不思議そうに後ろから近付いてくる蒼井さんの気配がした。
「…喧嘩だな」
私が送る視線の先を辿って素っ気なく言った。
男の人の隙間から見えた、見覚えのある制服に髪色。
「…ぁ、」
その中心に蹲っていたのは麟くんだった。
「っと、どこ行くんだよ」
「助けに行かないと、麟くんがっ」
あんなに殴られて、血まで出ている。
早く、早く助けないと。
「死ね!雑魚が」
肩を掴まれた蒼井さんの手を振り払って路地裏に入ろうとした時だった。
「殺されてぇのか!?」
─────『殺されてぇのか!!?あ"ぁっ!?』
─────『死んで詫びてよ』
─────『裏切り者は許さない』
ザザッと映像のように頭に浮かんだ、恐らく失くした私の記憶。
…何、何が……。
「っ、はっ、……ぁ、」
そこは大雨が降っているせいで私と目の前にいる人はずぶ濡れになっていた。
赤黒い何かがその人から流れ地面をグロテスクに染めている。
その赤い何かは大量の血液で。
私の手にもベッタリと付いていた。
「ヒッ」
映像のように記憶が流れてくる度に頭を鈍器で殴られたような重い痛みと耳鳴りが襲い、視界が揺れた。