「てめぇ、人の話無視すんじゃねぇよ!」


無視をし続ける男の人の胸ぐらをグイッと掴んだ。
そして男の人の目はゆっくりと動かされ、初めて麟くんの方へと向いた。

その瞬間走った妙な寒気。
またゾワリとした何かが背中を伝うような感覚。

それは麟くんも感じたようだった。



「苦しいんだけど」



この場に似つかわしくない淡々とした声が響いた。
固まっていた麟くんも掴んでいた胸ぐらから手を離した。


「っ、どこの誰だか知らねぇけど羽宮は今記憶失くしてんだよ。例えお前がコイツと知り合いでも今の羽宮には分かんねぇよ」

「…は?記憶を失くしてる!?」

「す、すみません…」


目を見開き、さっきとは雰囲気がまるで違う顔で私を見る男の人は信じられないとでも言うように私と麟くんの顔を交互に見ている。


「帰るぞ」


男の人が油断している間に手をぎゅっと捕まれ、麟くんは私の手を引き走り出した。