話が途切れ、気まずい空気が流れた。
女は顔色ひとつ変えずに隣に座り移動する気配がない。

ふと、隣を見た。
柔らかい風に焦げ茶の長い髪がふわっと揺れた。
その風に乗って鼻を掠ったのはこの女に似合わない甘い香水と煙草が混ざったような匂い。

なんだこの女。っていうか…。


「お前、そのピアスの数バグってんの?」


風に吹かれ下ろされた髪が揺れた瞬間に見えた耳には結構な量のピアスが着けられていた。


「あぁ、うーん」


またもヘラヘラと笑い、曖昧に濁す女にイライラする。
なんだよ、と催促すると「まぁいいか」と呟いたのが聞こえた。


「皆には内緒にしてるんだけど、私ここに来る前に事故って記憶失くしてるんだよね」

「はっ?」

「まぁ、記憶喪失ってやつ?事故に遭う前の記憶がごっそりないの」


だから自分が一体何者で、どうしてこんなにピアスがあいているのかも分からないと言われた。