「電話、出ないんですか?」
「あぁ、またアイツからだ」
「…なるほど」
「怖ぇな。そろそろ見つかりそうだ」
「早いっすね。流石と言うべきでしょうか」
「今のツキに会ったって、どうにもなんねぇのにな」
「…あの男と再会して、もし“ルナ”さんの記憶が戻ったらどうするんですか?」
今のツキが記憶を取り戻したら、辛い思いをするのはツキ自身だ。
「それよりその呼び方」
「はい?」
「もうやめろ」
「……すみません、癖で」
「…若から連絡が来てる、呼び出しだ」
「はい」
車が進む度に後ろに吸い込まれるように流れていく。
見慣れない景色。見慣れ土地に建物。
慣れない新しい彼女の仕草、表情に雰囲気。
人間は同じなのに、何かが違う。
過去の事全てが失くなったら、ツキもそこら辺にいる普通の女のようになるのか。
…そういえば煙草の匂い、何も言われなかったな。
少し開けられた窓に吸い込まれていく煙を見てそう思った。