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「…良いんですか?あんなに冷たくして」


マンションまでツキを送り届け、車内に戻ると運転手の兼本(カネモト)がバックミラー越しに不安げな顔で俺を見ていた。


「優しくしてんだろ」

「んまぁ…。もっと、知りたがってる事具体的に教えたらいいのに」


困ってたじゃないですか、と言葉を漏らす。


「…確かにな。それにしても、あんな風に表情がコロコロ変わる奴だったんだな」


ポケットから煙草を取り出し、ライターで火をつける。
兼本はそんな俺に気付いてそっと窓を少し開けた。


「本当に記憶がないんですね」

「なんだよ、嘘だと思ってたのか?」

「そうじゃないですけど。でも、忘れられるのはちょっと寂しいですね」

「……そうだな」


あいつは、兼本の事も知っている。
珍しく話しているところもよく見かけていたし、仲も良かったんだろう。

ポケットに入れていたスマホがブブッとバイブで震えた。
画面上に表示された名前はここ最近ストーカーのように電話をかけてくる男。