ーーーその笑顔を見た瞬間。

風が吹いた気がした。



優しく。

甘い香りと一緒に。

恋心を連れてきた風。



私の頬を撫でていくーーー。









……春の終わり。

二ヶ月前に入学した県立A高校の校庭のすみで。

私、瀬野 美春(せの みはる)は木陰で休んでいる。



「大丈夫?」



中学からの友達で、今も同じクラスの川北 優里亜(かわきた ゆりあ)ちゃんが、私の顔を覗き込む。



「ごめんね。私がサッカー部の応援に連れ出したから、無理させちゃったよね?」



優里亜ちゃんはサッカー部のマネージャー。

今日は練習試合なのだけれど、三年生のマネージャーの先輩が欠席で、たったひとりでマネージャーの仕事をするのは心細いということで、私も付き添うことになった。



……なのに、迷惑をかけてしまっている。



私は首を振って、「平気」と笑ってみせる。

太陽の光をずっと浴びていたことで、気分が悪くなってしまい、だけどそれは、太陽の強さをナメていたからで、優里亜ちゃんのせいじゃない。