“博多”という地名は奈良時代からあるが、“福岡”という地名は安土桃山時代から江戸時代前期の武将である黒田長政が現在の赤坂付近に新しい城下町を作り、“福岡”と名付けたためできたと言われている。

福岡市に二つ地名があるのは、城下町の“福岡”と奈良時代から続く商人の町“博多”がそれ以後双子都市であるためらしい。


……全て柊くんが傾けてきた蘊蓄なので私が元々知っていたというわけではない。




中高合同の修学旅行当日。

朝早くから飛行機に乗って二時間程度で福岡に到着した。

この二日間は基本自由行動で、夕方五時までにホテルに集合して各クラス点呼を取るという形になっている。




「何でお兄ちゃんまで一緒なの」


じゅー、といちご味のタピオカジュースを吸いながら、桜ちゃんは初っ端から不貞腐れていた。


「弐川くんとあやめ先輩と一緒にデートできるから逆ハーレムだと思って楽しみにしてたのに」


ぶつくさ文句ばかり垂れているが、本当に怒っているというわけではない、と私は思う。

本当にキレた時の桜ちゃんはもっと態度悪いしもっと怖いので……。


「桜ちゃんと仲悪いの?」
「いや、人前で兄と仲良くするのが恥ずかしいんでしょう。普段はもっとベタベタしてきますよ」


こっそり柊くんに聞くと、桜ちゃんが思春期なだけだったのでほっとした。




この修学旅行は自由行動が主であるため、班単位での計画性が重要となってくる。


うちの班は、

「疲れないならどこでもいーい♡」と弐川くんが言い、

「このタピオカ飲みたいでーす」と桜ちゃんがインスタの画面を見せながら言い、

「櫛田神社行ってみたいかなぁ……」と私が言った。


私たちから出た意見はそれくらいだったため、日程や他の場所は全て柊くんが独断で決めてくれた。


秋一くんが「もうちょっとみんなで話し合ってから決めようよぉ。独裁はんた~い」と柊くんを茶化したが、柊くんは「民主主義は民意がないと成り立たないので。」と一掃した。


因みに私が櫛田神社へ行きたがったのは、【恋愛成就 福岡 神社】で検索したら出てきたからだ。

……だって、神頼みしてみたくもなる。


ちらりと後方を歩く秋一くんたちを見た。

さっきから秋一くんと桜ちゃんばかりが並んで歩いていて、その前を私と柊くんが歩いている。


一応秋一くんと付き合っているのは私なのに、どうしてこのような並びになっているのか……いや、理由は分かっている。

秋一くんと桜ちゃんの方が趣味が合っているし、付き合いが長い分話す内容が多いのだ。

さっきから何やらずっと私の知らないアプリゲームの話をしている。

それに、桜ちゃんも秋一くんと話すのは久しぶりなのか、物凄く楽しそうで入っていける空気ではない。



……もやもやするなあ。

柊くんと桜ちゃんが家へ入っていくのを見た時とはまた違ったもやもやだ。

あの時は柊くんがもう手に入らないことを嘆いて心臓を刺されたみたいな痛みが走ったけれど、今秋一くんと桜ちゃんが並んでいるのを見ていると、じわじわと毒が体を浸食するみたいに気分が晴れない。ずっと焦っているような感じだ。

……これが恋愛における嫉妬か……。


頭が痛くなってきた。

弐川秋一という人間は、愛だの恋だのくだらないと思っているし他人と肌を重ねるのが好きなだけの寂しがり屋だし恋愛感情なんて知らないし恋愛感情に最も近い執着心を抱いている相手はと言えば、この柊司だ。


この恋が叶う確率、何度考えても低すぎる。


柊くんを超えなきゃいけないのか……てか柊くん横顔綺麗だな……と絶望しながら横を歩く柊くんをじっと見つめていると、不意に目が合った。


「ガン見しすぎです」
「ご、ごめん。柊くんの横顔美しいなと思って」
「そうですか。着きましたよ、櫛田神社」


相変わらずのドスルーだ。