「おはよう!柊くん!!」



――翌週の月曜日、私は朝補習のある柊くんを雨の中校門で待ち伏せた。

他の生徒が来るよりもうんと早いこの時間はまだ暗いけど、真面目な柊くんは律儀に朝補習に参加しているようだった。予想通りだ。


案の定柊くんは困惑と動揺の入り混じった顔をした。

しばらく音沙汰がなかったのに、急にこのような待ち伏せが再開されたのだから当然だろう。


「……お元気そうで何よりですね」
「うん!ちょー元気!」
「嫌味ですよ。喜ばないでください。馬鹿は気楽で生きていて楽しそうだ。参考になります」


私の横を通って傘を閉じ、昇降口でローファーを脱ぐ柊くんの前に先回りして立つ。

相変わらずの毒舌が懐かしくて思わず頬が緩んだ。


「うん、私馬鹿だからもう考えないことにした。柊くんに恋人がいても、もう関係ない。柊くんは私の憧れだから。恋人がいたくらいで尊敬するのをやめるなんて、本当のファンじゃないよね」


そう、何を落ち込んでたんだ私は。

完全に吹っ切れたというほどではないけれど、いつまでもうじうじするなんて私らしくない。

いくらダメージを受けたって強く気高く、……これからは清く正しく、柊くんを憧れていくんだ。


「でも柊くんに寄りかかりすぎるのはもうやめる。今までよりももっとずっとしっかりしなきゃって思うんだ。だって私新しい妹が――」
「あの、語るのは結構ですが、勝手に僕の妄想上の恋人を作り上げるのはやめていただいても?」


靴を履き替え傘を傘置きに立てた柊くんが呆れた様子で歩き出すので、慌ててそれに並ぶ。


「いや、私知ってるからね!何で私に隠すの?前も女性と交際したことないとか言ってたし。私が落ち込むと思って隠してくれたの?」
「僕が貴女を気遣うと思いますか?それに、僕は基本的に嘘はつかないようにしているんです。嘘をつくと、自分がどんな嘘をついたか覚えておいて貫き通さなければいけませんから、負担が増えるだけでしょう?」
「……じゃあ女性と交際したことないってどういう意味で言ったの?桜ちゃんと付き合ってるのに」


そう言うと、柊くんが珍しく立ち止まり、怪訝そうな顔で私を見下ろした。