LINEの呼び出し音が鳴り続ける。


 ――『慰めてあげよっかァ?』


画面に映っているのは、夏休みからずっと自分では開いていなかった連絡先だった。


 ――『俺に慰めてもらうってのが、どういう意味か分かってるならだけど』


一向に鳴り止まないコール音に耳を傾けながら、ああ、かけなければよかった、とキャンセルしようとしたその時、

音声通話が開始された。


「秋一くん、」


向こうの“もしもし”も待たずに名前を呼ぶ。


「じゅーいぢぐん……」
『は?泣いてる?』
「う゛ん゛……」
『ふぅん。ウケんね』
「柊くん、桜ちゃんと一緒に歩いてた。二人で」


電話の向こうの秋一くんが黙る。

ぼろぼろ涙が溢れてくる。

柊くんはあんな風に、外でいちゃつきながら帰ったりしない。私とは。

相手が私だったら、関係を疑われたらどうするんですかって拒絶する。

ずっと知ってるから分かる。桜ちゃんとはあんな風に腕を組んで歩くってことは――そういうことなのだ。



自室で一人蹲りながら、元セフレに電話をかけている私は、誰がどう見ても滑稽だった。



「もう分かんない。誰が誰を好きで、誰をどう思ってて、どういう関係なのか全然分かんない。全部教えてほしい」
『つーかぁ、何で俺?ちょーっとめんどくせーんだけどぉ』
「秋一くんは知ってるんでしょ」
『何を』
「桜ちゃんと柊くんの関係。私が桜ちゃんと仲良いこと、ずる賢いって言ったじゃん。」


きっと私が桜ちゃんと仲良くなり始めた時秋一くんは、私が柊くんから桜ちゃんを奪おうとしていると思ったのだ。

私を落として柊くんから離そうとした秋一くんを倣って。


あの光景を見ると、秋一くんが桜ちゃんに対して妙に甘いことにも頷ける。

桜ちゃんは私と同じ、秋一くんにとって落とす対象。


『教えてほしいって言われてもなぁ。あやめちゃんはあの二人の関係何に見えたのぉ?そのままだと思うけど』
「……想い合ってる関係」


口にして吐き気がした。


『なんだぁ、分かってんじゃん。そーだよ、俺が何で桜ちゃんと一緒にいると思ってんの?柊の正規のカノジョだからだよ』


嗚咽が大きく聞こえないように、スマホを床に置いてスピーカーにした。





「い、いつから、」
『あやめちゃんが編入してくる前から。』
「……じゃあ桜ちゃんが別れた彼氏って、」
『柊だよ。何日か前にヨリ戻したの。……あ、ちょうど俺らが3Pした日の夜じゃなぁい?』


3Pて。確かに私が秋一くんに犯されている間、桜ちゃんが私にキスしてきたりしたけど。


『だから一応あやめちゃんとえっちした時の柊はフリーだよ。浮気じゃなくて良かったねぇ』
「……柊くん、女性と交際したことないって言ってたのに……」
『柊の人間性を買い被りすぎでしょ。ヤれそうな女に対してヤるための嘘つかない男なんていねーから。あいつあやめちゃんが思ってるより悪い男よォ?』
「――――柊くんのこと悪く言わないでよ」


秋一くんが柊くんを知った風に語ることが許せなくて、食い気味に注意した。


『ハイハイ。だぁいすきな柊くんのこと悪く言ってゴメンねぇ?じゃあ、俺飯食べるから』
「待って、」


通話を切ろうとする秋一くんを呼び止める。



「今から秋一くんの家の近くのファミレス行くから、一緒に食べよう」