――――ずっと昔の話。


お母さんとお父さんが離婚した。

原因はお父さんの浮気で、私はお母さんと二人でこの地にやってきた。

私が保育園に上がる頃だった。


お父さんの浮気の言い訳は、“出産育児で夫婦の営みが極端に減ったから”だった。

お母さんの再婚相手はそう簡単には見つからなかった。


家が近所だった柊くんとは、小学校が一緒ですぐに仲良くなった。

柊くんのお母さんは優しい人で、私のお母さんとすぐに仲良くなった。

お母さんがなかなか家にいない私にも、「寂しい時は私たちの家に遊びに来ていいのよ」と言ってくれた。私はそれに甘えた。

柊くんのお父さんが単身赴任でイギリスにいたこともあり、柊くんのお母さんと私のお母さんは、お互い“女手一つで子供を育てる母親”同士、気が合うところがあったのだろう。


ずっと家にいないお母さんの代わりに、私は柊くんと、柊くんのお母さんに懐いた。

家で一緒にテレビを見たり、クッキーを作ったり、歌を歌ったりした。


私は柊くんと柊くんのお母さんを見ていて、愛される柊くんと愛されない自分の違いは何だろうと考え始めた。



その頃からお母さんは家に帰ってくるようになった。必ず、男を連れて。

私は柊くんの家で遊んだ後帰宅して、玄関に知らない靴があると近所の公園へ行くという日々を繰り返した。

幼いながらに、あの場所へ入ってはいけないと理解していた。

お母さんの娼婦のような喘ぎ声。私はあれを聞いてはいけないと思った。

お母さんは男に夢中になり、徐々に私に構わなくなった。


「私を産まなければよかったと思ってる?」



そう聞いた時のお母さんの表情が今でも忘れられない。

答えづらい質問をしておいて、すぐに答えなかったお母さんを身勝手にも恨んだ。悲しかったのだ。

頻繁に別の男を家に連れ込むお母さんと、相手の男の反応から、十歳になる頃には否が応でも理解していた。



自分が邪魔な存在であることを。








その時私はもう一度問い直すことになる。



 柊 司 と 高坂 あやめ の違いは何か?



思いつく限りひとつひとつノートに書き出した。







勉強。柊くんは秀でているが私は並。

運動。柊くんは何だって一番になるが私は目立った得意競技もない。

見た目。柊くんは日本人が美しいとする顔をしている。私は幸運にも不細工ではないけれど、人の目を引くほどの美貌はない。

内面。柊くんは言葉は厳しいものの、人を思いやる心を持っている。私は多分、自分のことしか考えていない。

人気。柊くんはクラスの真ん中に立つタイプではないけれど、少数の賢い友達と深い関係を築いている。私は口下手で、友達はあまりできていない。





分析していると明確に分かったことが一つあった。

柊くんには価値があり、私には価値がないことだ。

逆立ちしたって柊くんには勝てない。

人間は能力のある人間に魅力を感じる。

私に足りないものは、柊くんの持つ優秀さに違いなかった。


私は柊くんになりたかった。

柊くんほどできる人間に。

価値のある人間に。



そしたら――――