その瞬間、柊くんが見たこともないような目をしていて何も言えなくなった。

暗いからそう見えるのかもしれない。でもそれは紛れもなく、欲情した男性の目だった。


「……か、帰ろう、柊くん」


思わずパッと目を逸らしてしまった。

柊くんの表情がエロくて焦ったせいで、濡れた服をどうしようかとかこんな辺鄙なところでバスって何時まで出てるんだろうとか、さっきまで忘れていた色々な不安が連動して浮かんできたのだ。



しかし柊くんは私の提案には応えない。


「頭では理解しているんですよ。僕が傍にいることが、貴女のためにならないことくらい」


独り言のようにそう言いながら、ゆっくりとした動きで近付いてくる。


その手から逃げようとして、背中で後ろの岩にぶつかった。



「貴女を放っておけないのは、僕のエゴなんでしょうね」


この場所はちょうど岩の影に隠れていて民家からは見えない。

逃げられないこの状況に、良からぬことを考えてしまう自分に嫌気がさす。


柊くんの唇が私の唇に重ねられた。
いつもより少し長いキスが何度か続く。


波の音とリップ音が響く。

目を瞑って感じる、暗くなった海の気配は、何だか少しだけ不気味だった。


しばらくキスを繰り返していた柊くんは、不意にそれをやめて、私の肩口に弱ったように頭を乗せた。