呼び出したら必ず来ること、すなわち誘いを断らないこと。
柊 司と会わないこと。


この二つが、弐川くんが出した、私の援助交際を柊くんに言わない条件だった。

だから期末テストが終わってから私は柊くんと会ってない。

最初はそんなの守ってやるかって思った。
こっそり会えばいいって。

でも弐川くんは意外と徹底していて、私のLINEを毎度チェックしてくるどころか、位置情報の開示まで強要してきた。

弐川くん曰く、「俺セックスする女の子には全員こうしてるよぉ?束縛激しーの、俺。」とのことだった。

実際弐川くんの位置情報共有アプリの画面には、複数の携帯の位置情報が共有されていた。

自分は束縛されるのが嫌いなくせに、体の関係を持った女のことは束縛するなんて弐川くんらしい。


柊くんは自分のスマホを他人に見られることに抵抗がない。
他人が許可なく自分のスマホでアプリゲームをしていても何も言わない男だ。

こっちのスマホでやり取りを非表示にしたところで、弐川くんに柊くんのスマホを見られたらアウト。

さてどうやって会うか……と模索しているうちに、夏休みも中盤に差し掛かっている。


……会いたい。

柊くんに会いたい。





「オレンジでいい?あやめちゃん」


事後、二人でソファに座って棒アイスを食べるのが定番になっている。
私は差し出されるままにそれを受け取り、ぼんやりしながら食べる。

弐川くんも麦茶を飲んでからアイスを食べ、スマホをいじっている。
いつ見てもLINEのトーク画面だ。相手はよく変わるが、私が見ている中で一番多いのは――“桜ちゃん”だ。

弐川くんの家に来るようになって、週に数回会うようになって、弐川くんとの関わりが濃くなって分かったこと。


弐川くんは“桜ちゃん”に特別優しい。

女の子には誰にでも優しいのだと思っていたけれど、“桜ちゃん”への態度にはそれに加えて、いい加減さがない。

クラスの女子と出かけている途中でもふらっと他の女のところへ行くような男である弐川くんは、“桜ちゃん”と一緒にいる時だけはどんな誘いにも乗らないらしい。

明らかに“桜ちゃん”だけが、優先順位が高い。

私とのセックスの最中に“桜ちゃん”から電話がかかってきた時は、行為を中断してそっちに出たくらいだ。


《《->》》
《《%color:#8f8f8f|「あんなに優しいのに、私のこと好きじゃないの、》》
《《%color:#8f8f8f|イカれてんじゃないのって思います」》》

《《<-》》

――あの時の言葉に対し、今は私も同意する。


弐川くんは“勝手にバタバタもがき苦しんでるだけ”なんて言っていたわりに、“桜ちゃん”には誠実なのだ。


「……じゃあ私、そろそろ行くね」


服のボタンをしめて立ち上がった私に、スマホを見ていた弐川くんがようやく顔を上げた。


「もう帰んの」
「家のトイレットペーパーないんだ」


今日は買い物に行かなければならない。
弐川くんの家から歩いていける範囲で日用品を買うのであれば、あそこの商店街付近が妥当だろう。


「ふぅん。行ってらっしゃい」


弐川くんはまたスマホに視線を落とし、私のいなくなったソファに怠そうに寝転がっていた。