依存症の一番の報酬は苦痛の緩和だと人は言う。

今が苦痛であるから、痛み止めとして何かを欲すると。


私にとって柊くんがそれだった。

幼い頃から、柊くんが私のコンプレックスを補ってくれた。


柊 司という人間は、私が欲しくても得られなかった物を全て持っていた。

良い家庭環境、生まれ持った頭の回転の速さ、財力、運動能力、美しい顔。

私はあれほどまでに神に選ばれたかのような人間を、柊くん以外に見たことがない。

私の人生で出会ってきた人間の中で、柊くんこそが最も価値のある人間だった。


柊くんに近付きたかった。

ずっと柊くんを見て生きてきた。



“見えなくなった”のは、中学に上がる頃だった。

別々の学校へ行った私たちは、会える回数が極端に減っていった。



私はどう生きていけばいいのか分からなくなった。

私が優秀でない代わりに、傍に優秀な人がいなければ。その人を見て成長し、その人と一体化しなければ――私はどうやって自分に価値を付ければいいのか分からなくなってしまう。




初めて体を売ったのはその中学の時だった。

街で歩いていたところを小綺麗なおじさんにナンパされ、流されるままに初めてを失っていた。彼は私にお金を払った。




分かりやすく数値化された札束という手段で、私に価値をくれたのだ。







――なのに、目の前の男はどうだろう。

私に金を払わないどころか、私の体を好きに蹂躙してくる。私には何のメリットもないこの行為を搾取と言わざるして何と呼べばいい?


「あやめちゃん、気持ちい?」


汗の滴る弐川くんはえろい。
教室にいる時のいい加減な態度とは違って、女の上に乗っている時の弐川くんの目は、他の男がそうする時のそれと何ら変わらずガチだった。

外から聞こえるセミの鳴き声が五月蠅い。
夏休みに入ってから、弐川くんは週に数回、自分の家に私を連れてくるようになった。

弐川くんの両親は共働き。家には誰もいない。部屋のクーラーの音を聞きながら何度交わったか分からない。リビングでもした。お風呂場でもした。弐川くんの家族は弐川くんがこんな爛れた人間だと知っているのだろうか。


「気持ちよくない」
「うん、気持ちよくなるようにしてねーもん」


あっけらかんと言い放った弐川くんは、こちらの様子などどうでもよさげに、自分の欲を放つためだけに打ち付けを強くした。


「俺、女の子のことこんな風に扱うの初めてかも」
「……っ、」
「この体俺の物にしてるみたい。……何喜んでんのぉ?あは、マゾだねあやめちゃん」


不本意なことを言われながら与えられる快楽に耐える。

時折弐川くんは、私が一番嫌なキスをしてくる。


――自尊心がぐちゃぐちゃになりそうだった。


初めてしたのはあの放課後。もちろん場所は変えたけど、あまり使われていない階の男子トイレの個室っていう、酷い場所だった。

無機質な天井を見ながら思う。
私、何人の同級生と竿姉妹なんだろうって。