(お参り……?)


何の話だろうと思って横を見ると、どうやら私とあの幽霊は神社の隣の道で暴れていたらしかった。

この町で一番大きな神社だ。町中《まちなか》にあり行きやすいので、おばあちゃんが生きていた頃はよくお参りに行っていた。


幽霊が視えない人からすれば、私は神社近くで一人で大声を出しながら暴れていた不審者だろう。


「す、すすすすすみません! 私、怪しいものではっ……」
「――君、お狐さまを連れているね」


美しい男の巫女さんが自分の後ろをじっと見つめているので、振り返ると、そこには真っ白な狐がいた。

普通の狐、ではない。明らかに違う。幽霊とも違う、異質で神秘的な存在感がある。


『ようやく俺が視えたか。何年待たせる気だ。間抜け』
「ま、間抜け!?」


それは可愛らしい見た目に反して口が悪く、突然罵られて唖然としてしまう。


「僕の名前は神煌(かんこう)翠波(すいは)。この神社の管理者の息子だよ。入っておいで」


そう言って翠波と名乗った人が歩き始めるので、思わず狐と交互に見つめてしまった。


「そのご眷属も連れてきてね」


眷属、というわけではないのだが、と思いながら、狐をおそるおそる抱きかかえ、翠波さんに付いて石段を上がっていった。

鳥居をくぐった瞬間、神殿の向こうから自分に向かって吹き抜けていくような感じがした。


(触り心地がいい……)


もふもふした狐の感触を味わいたくてさわさわ撫でながら歩いていると『やめろ』と言われた。


「やっぱ喋るんだ……」
『俺はずっと喋っていた』
「化け物だ……」
『おい。無礼なことを言うな。神の御使いだぞ』


自称神の御使いの狐を抱えたまま、翠波が神社の奥にある小さな部屋に連れてきた。

「座って」と言われたので座布団の上におそるおそる正座する。翠波がしばらくどこかへ行ったかと思えば、お茶を持ってまた現れた。


「君は、神楽里(かぐらり)瑠璃音(るりね)ちゃんだよね?」


何故私の名前を知っているのだろうと驚きながら頷いて肯定した。

翠波さんはふふっと笑い、私の前にまだ温かそうなお茶を置いてくれた。

翠波さんのような綺麗な男の人を見たのが初めてだったので緊張してしまい、「ありがとうございます」と伝える声が物凄く小さくなってしまった。


「さて。単刀直入に勧誘させてくれるかな」


ちゃぶ台を挟んで私の向かい側に座った翠波さんが、にこりと笑って問いかけてくる。



「――――“祓い屋”にならない?」