「若、そろそろお時間ですが…」


すると襖の向こうから
辻川さんの声が聞こえた。


私の体調を気遣っているのか
いつもより静かな声で響さんを呼んでいる。


「…響さん、私は大丈夫ですから。
お仕事にいって下さい…」


私が微笑めば
響さんは辛そうな顔をしていたけど


「私のせいでお仕事を休まれるなんて
いけませんよ…。響さんはこれから柏木組を
背負って立つ方なんですから…。
私の存在が、響さんの将来を邪魔してしまうなら…この先私と傍にいてはいけませんよ」


私もヤクザの長子として産まれたため
本来なら響さんのように
組を背負って動かなければならなかった。


…病弱だけれど、
もしいつか身体が元気になれたら
いつでも組の為に動けるように

それなりの心づもりは持って
ずっと生きてきた。


でも私の身体はやっぱり…
こんなに優しい人に囲まれた環境の中でも
体調を悪くしてしまう。


今日体調を崩してしまったのは
響さんの過去の想い人の事だけがきっかけになった訳ではない。


きっと…体調が良いと思い込んで
いつもより外を歩きすぎた事もあると思う。