白いTシャツに、くすみピンクのロングスカートを合わせて、最後にピアスを付ける。この前露店で買った石で作ったピアス。我ながら上出来だと思う。姿見の前で、全ての角度をチェックして部屋を出た。


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「はぁ…なんでハッピーエンドにならないの?」

 ベッドに転がりながら、ゲーム機を操作する。
 大の字になると、天井に日が入っていたことに気がついた。ワンルームには珍しく、ベランダへ出る窓の他に大きめの窓がもう一つあることで、自然光は十分に入る作りになっている。けれども夕方になって電気を点ける為に起き上がるのが面倒で夜も昼も電気は点けっぱなしになっていた。

「もう、西日が入る時間になってたのか。今日の夕食何にしよう。めんどくさ。」

 髪の毛を適当に梳かして、オーバーサイズのTシャツを着る、いつものバックパックを背負って部屋を出た。


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 時計は六時を指していたが、まだ外は明るい。明るいうちに家に帰るのは寂しい気がして古本屋に立寄った。
 薄暗い店内で、一冊一冊の背表紙を丁寧に読んでいく。気になった一冊を背伸びして取る。タイトルは『泉に架かる光る橋』作者も題名も見聞きしたことがない。表紙は若干日に焼けているが、ざっと見たところ、状態は悪くなさそうだった。あらすじを読むと、好きそうな内容なので、買ってみることにした。
 駅への道を歩くと、小さくて古そうな喫茶店が目に入った。ドアを開くと、乾いた音のドアチャイムがなった。

「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ。」

 声の主は姿が見えなかったが、窓側の四人席へ座った。メニュー表を開く。先ほどの声の主なのか、小柄な年配女性が、おしぼりとお水を静かにテーブルへ置く。

「おタバコすいますか?」
「いいえ。吸いません。」

 女性はにっこり笑って、置いてあった白い灰皿をトレイに乗せた。

「注文いいですか?」
「はいどうぞ。」

 エプロンのポケットから伝票を取り出す。

「ナポリタンのセットで、ホットコーヒーお願いします。」
「はい。ナポリタン、ブレンドね。」

 店内は誰もおらず、静かにジャズが流れている。先ほど買ったばかりの小説にいつものブックカバーをつける。


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 本屋に寄ってから入った激安スーパーには過剰に明るい店内音楽がリピートでかかっている。カップラーメン売り場で、決まった銘柄の違う味を適当にカゴに放り込む。そのまま真っ直ぐ進んで、無人レジの列に並ぶ。レジの順番が来ると、パンツのポケットにスマホをねじ込む。慣れた手つきでレジに通す。隣のレーンには仲よさげな夫婦があれこれ言いながら作業している。それを横目で見ながら、支払いを済ませ、カップ麺を雑に買い物袋に詰めて店を出た。

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 コーヒーを飲み干すと、口を拭った。小説をバックにしまって、ほったらかしだったスマホを見る。バックを斜めがけに背負って、店員さんへ声をかける。

「九百七十円です。」

 財布から千円をとりだして、トレイに乗せる。

「三十円のお返しね。ありがとうございました。」
「ごちそうさまでした。」

 店から出ると、外の明るさに少し目が眩んだ。すると、横からの衝撃で、その場に転んだ。

「いったーい。ちょっと!何すんのよ。スマホ落としたじゃない。」
「すいませんでした。大丈夫ですか?」
「もう、ぼーっと突っ立っていないでよ。危ないじゃない。」

 先ほどから甲高い声で話す女性は、散らばったカップラーメンよりも先にスマホを探していた。

「このスマホですか?」

 二人同時にスマホに手を伸ばしたとき、目が焼けるかと思うほどの強い光が発せられ、周りが何も見えなくなった。

 やっと目が慣れるとそこは、大理石のような白い床の、どこかの教会の様な造りの建物の中だった。ヒヤッとする床には漫画やアニメで見る魔法陣のような柄が描いてある。その中心に自分がいる。
 喫茶店の前でぶつかった女性も一緒だった。