こうなったら仕方がない。


 意を決した私は、郵便局を越えてタバコ屋さんの角を曲がろうとしていたショウに向かって大声で叫んだ。


 「お願いっ。捨てないで!! 私、ショウがいないとダメなのっ!!」


 車の走行音に打ち勝つくらい大っきな私の声が大通りに響く。

 周りを見渡すと、自転車に乗っていた子ども連れの奥様たちや、杖をつきながら歩いていたお婆ちゃんがギョッとした顔で私を見ていた。

 ショウもさすがに驚いたのか足を止めて目を見開いてる。

 周囲の驚きは直ぐに同情と憐れみに変わり、お婆ちゃんが『これ、食べて元気をだしてね?』と言いながら私にイチゴ味のアメを握らせてくれた。


 「お婆ちゃん……。ありがとう」

 「いいのよ」


 涙目になりながらニコニコと笑うお婆ちゃんにお礼を言い、再びショウの待つ曲がり角に視線を向ける。

 こちらを見る色の消えたショウの顔。

 あれ?怒ってる?と思ったのも束の間のこと。



 「カンナ! てめぇっ!! ふざけんじゃねぇっっ」


 今度はショウの怒鳴り声が大通りに響いた。

 “許すまじカンナ!”と言わんばかりに鬼のような形相をしたショウが、持っていたケーキの箱を脇に抱えて、全速力でこちらに走ってくる。