「実は……。今日ね、ケーキ屋さんに行った帰りに路地裏でショウに襲われそうになって……」

 「(ちげ)ぇしっ。勘違いされそうな言い方すんじゃねぇ!!」

 「あ、ごめん。ちょっと違った。力尽くで無理やり押し倒されたの」

 「は?ショウに?」

 「そう。この膝にあるのが、その時の傷で……」

 「だから変な言い方すんなっ。普通に突き飛ばされたって言えよ!!」


 ショウが苛立った声で叫ぶ。その瞬間、下の階がバタバタと騒がしくなった。


 「何となくわかった。でも、ショウ。とりあえずちょっと落ち着きなよ」

 「うるせぇー!ナオは黙ってろ」

 「そうじゃないって。そろそろ……」


 ナオが苦笑いを浮かべた瞬間、ドアが凄い音を立てて再び開いた。そこには鬼のような形相をしたショウのパパが……。


 「……おい、ショウ。何やってんだ?」

 「げっ。オヤジ」

 「俺はカンナに謝りに行けってお前に言ったはずだよな?」


 健オジサンが壁にギリギリと爪を立ててショウを激しく睨む。その所為で壁紙がポロッと数㎝剥がれ、剥がれた壁紙が床にヒラヒラと落ちた。

 いやっ。壁に傷が……!!


 「おい、カンナ。お前、ショウに謝って貰ったか?」


 健オジサンが低い声を更に低くさせて私に尋ねてくる。怒りを押さえているような僅かに震えた声。


 「ううん。全然」

 だから首をフルフルと横に振って否定した。


 「殴られそうになってた」

 ナオもすかさず真実を告げる。


 「殴られそうに……なった?」


 健オジサンの気の強そうな目が一段と釣り上がり、眉間に寄せた皺がもっと深くなる。


 下から上まで舐めるように視線を送られ、それまで怒っていたショウはギクッと体を強ばらせた。


 さすが……。昔、魔王って呼ばれていただけあって迫力が凄い。怖すぎる。